風の音は
👤木村聡雄
子どものころ公園などの草の上に寝転がると目に飛び込んできたのは青空と雲、それから陽の光の眩しさも覚えている。
周りの草の青臭いようなにおいも確かにあった。
この作品はそんな子ども時代を思い出させるものだが、あのころには気がつかなかったことが主題となっている。
すなわち、生まれる前の風の音には聞いたことがない気がする。
もしかすると大人でも、忙しくて草の上に横になる心の余裕がないと聞こえないのかもしれない。
しかしながらこのルーマニア俳人の耳にはどのような音か、未生の風の音が響いているに違いない。
そしてこの作品を読んだ人たちも、そう言われれば聞こえてくる気がすると思うのだろう。
これはいわば詩的真実と呼べるものであり、さまざまな俳句を読んできたあとでは、われわれも草に寝そべればここに語られているようにきっと聞こえるはず、と感じさせてくれる一句である。
さて、この句が掲載されている『アルバトロス』はルーマニアの国際俳句誌。
この誌名になっている「信天翁」とは、真っ白い翼を広げれば二メートルほどにおよび、羽ばたくというよりは風に乗って滑空する。
陸ではうまく歩けないうえ人を恐れないので、すぐに捕まってしまうところからこう名付けられたという。
ところでその当て字は一説には、あまり羽ばたかないので「天を信じている」ように見えたそうである。
また白い羽毛は白髪、あるいは白髭を思わせ「翁」と呼ばれたという。
確かに、低くしわがれた鳴き声も若者というよりは「翁」のようではないか。
(Japanese translation: Toshio Kimura, Albatross, 2000-2001, Romania)
[Sound of Winds Toshio Kimura]