花から言葉へ
木村聡雄
これまで山深い雪景色そして街中の月の作品を順に挙げてきたが、今回はわれわれの周りでよく見かける春の黄色い野の花である。
words words words
another field of dandelion
gone to seed
-Susan Constable
言葉言葉言葉
タンポポ野原がまた
種に
スーザン・コンスタブル
わが国には二ホンタンポポのほかに外来種のセイヨウタンポポがあるとされるが、実際にはこれらの交雑種やさらに他のタンポポの種も見られるそうで、馴染みある野の花の世界もそう単純ではないらしい。このタンポポの黄色い花は数日で咲き終わり、何日かするとあの印象的な綿毛へと不思議な変容を遂げるのである。(ネット上には黄色の花弁から白の綿毛への変化のタイムラプス映像もある。)
作者は、春の野原のタンポポの花々を見つけた。しばらくしてふたたび訪れてみると、その野原の黄色はごくわずかとなって白い綿毛があちこちにあふれる場所へと変貌していたという。これら無数の綿毛は風にのって新天地を求めて飛んで行くはずだが、実際には、条件の揃った地に無事着地して芽を出すのはごくわずかだという。
一行目に並べられた「言葉」という語は綿毛のように飛んで三行目の「種」と結びつく。作者は綿毛のその後の運命が、どれだけ言葉を動員しても満足のゆく一句になかなか辿り着けない俳句と似ていると気づいた。彼女が捻り出そうとする言葉は綿毛と同化し、例えば掲出句のような花を咲かせるのだろう。
(俳句和訳:木村聡雄 Haiku Canada Vol.10 2016 No.10)
[Flowers into Words Toshio Kimura]