幻想の歌枕―壺の碑(宮城県多賀城市) 宮城 渡辺誠一郎

地震禍越ゆ壺の碑春日燦 小関桂子


多賀城碑 撮影:渡辺誠一郎

 松尾芭蕉が、「おくのほそ道」の旅の途中で訪れた宮城県多賀城市。この地に建つ壺の碑は、令和6年8月に、「国宝」に指定された。壷の碑は、歌枕である。しかし歌枕は文学上のフィクション。現在は、「多賀城碑」と呼ぶ。芭蕉はこの碑を訪れ、深い感銘を受ける。その後、正岡子規、河東碧梧桐らをはじめ、多くの俳人など文学者が訪れている。
 碑は、多賀城南門跡近くにあり、江戸時代に設けられた小さな堂の中にある。碑の高さは1.9m、最大幅0.9mの砂岩。真西に向く。碑面には、多賀城の位置と国府多賀城造営、改修のことが刻まれている。朝廷の蝦夷征討の記念碑であるが、後世、歌枕・壺の碑にすり替わったともいえる。
 西側の小高い丘には政庁跡があり、礎石が残る。昨年、南門が復元され、政庁からの南北大路も一部再整備された。近くには沖の井、浮島、野田の玉川などあり、歌枕の幻想の世界へと誘う。俳人には、必見の地と言えよう。

 

佐野桜 栃木 相田勝子

佐野桜子らの歌えば子らへ散る 相田勝子


城山公園の佐野桜 写真提供:佐野市観光協会

 佐野桜は、淡紅色で中輪(2.5~3.5cm)八重咲、開花時期は4月中旬、枝は細く花つきが良く、花びらは12~15枚、ヤマザクラの栽培品種です。
 京都市嵯峨野の桜守第15代佐野藤右門氏が、昭和5年京都市広沢池にあったヤマザクラの実生から選抜し育成した典型的なヤマザクラです。昭和31年牧野富太郎博士が、佐野氏にちなみ「佐野桜」と命名されました。昭和49年佐野氏から佐野市へ苗木が寄贈され佐野市城山公園にあります。
 栃木県現代俳句協会支部三毳句会は毎月この城山公園にて、句会を開催しており、花の頃には一番に佐野桜に会いに行きます。ヤマザクラですので開花時には、若葉も見えて花の色に美しさを添えています。


城山公園の佐野桜 写真提供:佐野市観光協会

 

山中鹿介 島根 伊藤晃彦

ひこばえや山中鹿介(やまなかしかのすけ)の像 伊藤晃彦


ひたすら三日月に祈る山中鹿介像 撮影:伊藤浩二

 日本五大山城に選出され全国にファンを広げている月山富田城の所在地は島根県安来市。その中で殊に注目を集めている山中鹿介は、富田城が落ちた後に尼子氏再興を目指して立ち上がった忠臣である。志半ば34歳の若さで世を去ったが、その生き様や美青年のイメージが殊のほか人気を集めている。鹿介の生誕地は富田城近辺と言われており、正におらが町のヒーローである。城の曲輪には「願わくば我に七難八苦を与えたまえ」と月に祈る山中鹿介像が、今も屹度佇ち尽くしている。