面影を追う

木村聡雄

 記憶のどこかにしまい込まれた過去の一コマ。そのまま忘れられてしまうことも少なくないのだろう。そうした懐かしさを求め歩く旅人も確かに存在する。

邂逅
その皺の奥に
子どもの顔が ミュリエル・フォード
chance meeting
out of the wrinkles
a child’s face beams Muriel Ford

 久しぶりに旧友とばったり出会ったときのこと。元気そうだが、お互い皺が増えたのはやむを得ない。その「皺の奥」に一瞬、まるで「子ども」のような輝きがきらりと...。この描写には俳人の持つ観察眼がと感じられるだろう。とはいえ実は、それを見つけた作者の内に今なお生き続ける子どもの心が、無意識のうちにも友の顔に刻まれた皺の奥に同じものを感じ取ったのではないか。書かれてはいないながら、作者自身の皺の奥にも同じ光があるに違いない。

写真帳
父の瞳に
自分を探す ジョン・ローランズ
photo album
he looks for himself
in his father’s eyes John Rowlands

 古いアルバムを開くと、自分が生まれる前、若い日の父親の姿がそこに。おそらくは息子が、写真の中の父親の顔の目のあたりをじっと見つめている。もしかすると親戚などか誰かから、お前は目のあたりが父さんの若いころに似てきた、などと聞いたのかもしれない。実際、家族の昔の写真は自分にとって知らない過去にも関わらず、懐かしさが感じられることがある。ルーツを探りたいという気持ちは、それを引き継いで行こうとする心に繋がるのだろう。それもまた面影への旅のひとつである。過去と現在・未来とが重なる一瞬を捉えようとした一句と言えるだろう。

【俳句和訳:木村聡雄】
〈2句ともHaiku Canada Review (Volume 12, 2018, No.1) 〉
[Seeking After an Image Toshio Kimura]