あかすり
三木基史
趣味のひとつに「あかすり」がある。
夏場は月に1度、冬場は2ヶ月に1度のペースであかすりをしている。普段は近所のサウナ&スパ施設で、また、地方へ旅した際もその地のスーパー銭湯等であかすりを楽しんでいる。様々な入浴方法が美容と健康に効果的と言われ、昨今は空前のサウナブームだ。ところが、あかすりに関しては、このサウナブームに乗り切れず、まだまだマイナーなサービスに甘んじている。実際、私の周囲でも、あかすりを体験したことがない人の方が圧倒的に多い。
日本の入浴施設に併設されているあかすりサービスは、いわゆる「韓国式あかすり」のことだ。調べてみると、韓国では14世紀頃から汗蒸幕(ハンジュンマク)と呼ばれるサウナ文化があるようで、そこで砂風呂や泥風呂と共にあかすりを行う習慣がある。ちなみにあかすりのことを「セーシン」、あかすり職人のことを「セシンサ」と呼ぶらしい。日本では1970年代以降、サウナ&スパ施設やスーパー銭湯が全国的に増加するのに伴い、韓国式あかすりサービスも広まっていった。特に都市部の入浴施設で人気が高まり、その美容効果やリラクゼーションとしての価値が認識されるようになった。
私が初めてあかすりを体験したのは、2010年(35歳)頃だと記憶している。興味本位で予約したものの、不安で一杯。浴場の一角にあるガラス張りのスペースがあかすり場なのだが、すりガラスで囲まれており、内でどのような行為がなされているのか見ることが出来ない。湯舟に浸かって20分ほど毛穴を広げる。予約時間が来て「次、あかすりの人!」という声が浴場に響き渡る。あかすり場に入ると、Tシャツにショートパンツの女性が、簡易ベッドをバンバン叩きながら、「ハイ、ココ仰向けで!」と指示する。言われるがままに仰向けで寝転ぼうとしたとき、「チョット!眼鏡と鍵、この箱に入れる!」と叱られる。早くもあかすり初心者がバレてしまい、この時点で2人の上下関係が決まってしまうのだった。
安眠や冬将軍の垢落ちて 基史
【次回へ続く】
三木基史(みきもとし)
1974年生まれ。大阪市在住。現代俳句協会会員
森田智子に師事。結社誌等は無所属。
第26回現代俳句新人賞。