写真提供:井原 岩男

「わたしの1句」鑑賞  佐藤映二

  一読、雪晴れの空の下、火が激しく燃え上がっている景がまず眼前に浮かぶ。さらに、正面に積み上がった割木の焚かれる中、火を敬う行者たちの精魂を込めた祈りの最中であることが窺われる。
  ここで、賢治の西域を舞台にした童話の一つで、〈炎〉の特徴や性質につき、子どもたち相手の私塾で、先生が話しかける一節を引こう。

火が燃えるときは焔(ほのほ)をつくる。(中略)普通の焚火の焔なら橙いろをしてゐる。けれども木により又その場処によっては変に赤いこともあれば大へん黄いろなこともある。(中略)火といふものはいつでも照らさう照らさうとしてゐるものだ。それからも一つは熱いといふことだ。(中略)さう云ふ、熱いもの、乾かさうするもの、光るもの、照らさうとするもの軽いもの騰(のぼ)らうとするものそれを焔と呼ぶのだから仕方ない。
(宮沢賢治「学者アラムハラドの見た着物」)

 光る焔を見たら、昼夜を問わず狼や魔物らは近寄れない。炉端の薪から上がる焔を見つめると人は安堵するし、焚火を囲む人たちはその焔に和むのである。
 では、〈焔〉の〈光る〉〈照らす〉〈騰る〉をキイワードに一句の味わいを探ってみよう。
 〈呼び出す〉人物は、焔の妖しい色や輝き、そして、生き物とも見紛う火が天に騰る性と一体化せんとしている。その人物は、おそらく行者の長であって、地面の雪を踏み固めながら呪を唱え、熾烈な焔を誘い出さんとしている。早朝の寒気の張りつめる中、割木が激しく焔をあげ、その爆ぜる音に交じって、その呪はあたり一帯の空気を荘厳しているかのようだ。一団が一心に息を弾ませ唱和するなか、あたりには、躍り立つ焔を鼓舞するかのように、法螺貝も鳴り響いているのではないか。
 晴れ渡った空の下、雪原に映えて立ちのぼる、立派な炎によって浄められた、祈祷の現場の張りつめた空気まで伝わってくる一句である。

火の中に秘仏現れしもしばし程   三星 山彦
炎(ほ)の中に激浪を見し大焚火  能村 研三 
火美し酒美しやあたためむ     山口 青邨