動物だけが知っている
木村聡雄
another language
I don’t know
starling Ann Sullivan
私の知らない
別の言葉を
椋鳥よ アン・サリヴァン
作者が語る「知らない別の言葉」とはどのようなものだろうか。作者の思いを想像してみれば、俳句に惹かれて自らも(母国語で)作句していながら、おそらくは解読が難しそうな日本語だろうか。あるいは二行目で切らずに、外国語のみならず椋鳥の言葉(声)と続けて読むこともできそうである。椋鳥たちのあのうるさいほどの鳴き声は何を主張しているのだろう。
ところで言葉による意思疎通を考えてみると、実際我々は、多くの情報を視覚に次いで文字や音声などの言語から得ている。俳句も言葉に頼っているので意味が伝わらなければ成立しない。そのため俳句は原語のまま国境を越えるとその力が削がれてしまう。昔から続く翻訳や今日のAIは俳句が本来持つ力をある程度補ってくれるだろう。さまざまな言葉をこえて分かり合おうとする気持ちがあれば、世界中の争いの解決の糸口がなんとか見いだせるように思われるのだが。
midsummer twilight…
I follow the kitten into
our backyard jungle Corine Timmer
真夏の黄昏
子猫のあとを
裏庭の密林へ コリーヌ・ティマー
イギリスの都市部の家の敷地は道路から奥へと細長いものが多い。その奥は小さな裏庭となっている。隣家とはたいてい板の塀で隔てられているので、子猫がその庭の中を散歩するのはいつものことかもしれない。この日の夕暮れ、飼い主はふと子猫に誘われるように裏へとついていったという。イギリス人はガーデニング好きで知られるが、草花には手を入れすぎず自然のままのような雑然とした感じが好みのようである。とはいえ、それを「密林」と表現した途端、裏庭は未知の場所へと変貌する。密林の奥にあるものは...。子猫や動物だけが知っている別世界への入り口が存在するのかもしれない。
動物たちは、野生(の椋鳥)もペット(の猫)も、我々と時空をともにしながらそれぞれ別の言語の別世界に属しているらしい。これらの引用句は、作者が動物を通してそうした並行世界の存在に気づいたことを伝えるものなのだろうか。
〈和訳:木村聡雄 引用:Blithe Spirit 33:3, 2023(イギリス)〉
[Only Animals Know Toshio Kimura]