村芝居  青森 千葉芳醇

いくつもの役目担ひて村芝居 佐藤いく子


▲子ども歌舞伎「白浪五人男」 写真提供:むつ市役所

 村芝居としての「奥内歌舞伎」は、青森県の下北半島にあるむつ市奥内地区で演じられている。起源は明治中頃、江戸歌舞伎を源流とする旅芸人から伝えられたものでしたが、昭和五十年代から衣装・かつら等の老朽化や後継者不足により公演が途絶えていた。しかし、平成に入り奥内歌舞伎の復活気運が高まり、平成九年に開催された「奥内歌舞伎復活上演会」以降、奥内歌舞伎を伝承し続け、平成十五年に市無形民俗文化財の指定を受けている。後継者育成の一環から、小中学生を対象にした子ども歌舞伎にも力を入れており、地区を挙げて伝統芸能の保存に努めている。


▲練習風景 写真提供:むつ市役所

 

妖怪の里 徳島 上窪青樹

この辺り妖怪の里走り蕎麦 奈賀和子


▲妖怪の里  撮影:上窪青樹 

 四国のほぼ真ん中に当たる徳島県三好市山城町は山深く、数々の妖怪伝説が残る。 代表は柳田國男の「妖怪名彙」で紹介され、水木しげるの漫画で一躍有名になった「児啼爺」。この一帯は「妖怪の里」と呼ばれる。児啼爺の像の台座には水木しげる揮毫の妖怪名とサインが記されている。掲句は恐くて親しまれた妖怪を偲んでの句。山国で傾斜地のため蕎麦が特産であり、晩夏の頃には見事な蕎麦の花が見られ、初秋には走り蕎麦が味わえる。青みがさした蕎麦の味は、懐かしい妖怪の存在と相まって味わい深いものである。

鯛生金山 熊本 西口裕美子

鯛生金山にほお秋蝶の来たと父 西口裕美子


▲鯛生金山坑道に向かう道 撮影:西口裕美子 

 大分県日田市中津江村に鯛生(たいお)金山はある。かつてここは、東洋のエル・ドラード(黄金郷)と呼ばれた。採掘が始まった明治三一年から昭和四七年の閉山に至るまでに四〇トンの金、一六〇トンの銀を採取したという。昭和初期の最盛期、従業者は三〇〇〇人にも及んだ。黄金の特別な力は、彼らに深い孔を掘らせ続けた。ここは男たちの夢の跡。 海外からも多くの人が集まったという、殷賑を極めたこの地も、閉山の後は急に寂れた。栄枯盛衰―。今はもう、草木の緑深い山である。隣接の施設からは砂金取りを楽しむ人たちの声。蝶が楽し気に飛んできて、坑道の方へと消えていった。