水の星
The Blue Planet

多言語俳句アンソロジー
Multilingual Haiku Anthology

 

高橋比呂子(抄出・句評) 

野地邦雄                (日本)

Kunio NOJI                (Japan)

木の芽風雲も達磨さんも転んだ

breezing through buds on the trees:
both clouds and daruma-dolls
have fallen down

(評)
 木の芽風とは、旧暦2月、現在の3月の頃、木の芽月に吹く風をいう。中国最古の辞書『爾雅』に「2月を如となす」とある。「如となす」は、万物が神意にしたがい、自然が生き生きと動き出す時期ということができます。心地よく、万物が生き生きとうごきだす時期。子供たちは「達磨さんが転んだ」と、鬼に見つからないように遊ぶのです。雲さえも木の芽風に誘われて一緒に遊びます。〈達磨さんも転んだ〉のリズムが、春の喜びに呼応しています。童心にかえったかのような春の喜びが感じらます。

夏蝶を追うやあごひげ白むまで

chasing summer butterflies ―
until my beard turns
into grey

(評)
 夏蝶は、春の蝶より、大型で、紋の色が黒っぽく濃い。初夏以降に見られる蝶を夏蝶という。夏の日、日陰や、日向を飛び交う蝶の力強い命の美しさを感じているのかも知れません。年老いるまで、夏蝶のような生命力を持って生きてゆきたいという明るい句です。〈あごひげ白むまで〉が、俳諧的で、洒落ています。〈chasing summer butterflies ―〉が美しく効いています。

 ※『水の星・The Blue Planet』は、2011年に現代俳句協会国際部の当時の有志で出版しました。これは、多言語アンソロジーであり、日本、カナダ、ウクライナ、クロアチア、イギリス、ルーマニア、中国、アメリカ、ドイツ、ハンガリー等の国籍の俳人たちに参加していただきました。その中から、当時の現代俳句協会員を抄出し、句評を掲載しています。