2024年度 第79回受賞者 マブソン青眼 本名 Laurent MABESOONE

1968年9月22日、フランス生まれ、55歳。
  
◇文芸歴・俳句歴
1986年 交換留学生として初来日し、宇都宮高校の図書館で初めて俳句と出合う。
1996~1999年 パリ大学日本文学科修士課程修了後、再来日。長野オリンピック・公式文化プログラム「長野’98俳句でおもてなし」を発案・担当。長野市に居を構える。
1998年 金子兜太主宰「海程」に入会、2000年より同人(のち「海原」同人)。
2001年 パリ大学日本文学科博士課程修了(DEA、一茶研究専攻)
2002年 第一句集『空青すぎて』で第4回宗左近俳句大賞受賞。
2004年 早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程修了、学術博士(近世俳諧・比較文学専攻)。日本語の句集8冊、エッセイ集2冊、フランス語の翻訳集(一茶、新興俳句、金子兜太など)10数冊、フランス語の長編小説3冊を刊行。
2006年 第2回フランス語圏俳句フェスティバルに招かれ、以降フランス語圏の複数の句会グループの指導に当たる。
2019年~2020年 仏領ポリネシア・マルキーズ諸島・ヒバオア島で1年間暮らし、『遥かなるマルキーズ諸島』(句集と小説、日本語版とフランス語版)を執筆。その後
第1回ポリネシア俳句大会の審査委員長を務める。
2022年~ 現代俳句協会会員。

『妖精女王マブの洞窟』自選50句

妖精の女王はMABとや蝶とぶつかる

メタセコイアの最上の葉の美しい死

雪解川こんなにおいしい死の匂い

ベランダの椅子にわれ居ず陽は当たる

羊雲百句仏訳して眠る

父死して機窓に雲の乳房無限

なぜ空がこんなに青い 死ぬ日にも

草一本一本が人類滅亡を待つ

プルースト忌の果てしの見えぬ河面かな

大氷柱を掴んで不死身になろうか

白鷺が夕日の影を踏む絶望

戸籍謄本われにはあらずいわしぐも

ニホンという広き刑務所月朱し

遠くから鳩にも見ゆる基地の鷹

初鳩の真っ白な糞仏に落つ

選挙終えセシウムしみる枯野かな

日本国二重国籍を認めず春

潮干ゆく吾子(あこ)日本人我異人

法案の「その他」恐ろし木下闇

初雪積もれ俳句弾圧不忘(ふぼう)の碑

パリという卵が割れたような寒暁

上空から墓場と化せし聖母町(マリウポーリ)

空飛べぬ人間ばかり 雪に血痕

切株や戦死者靴を天へ向け

プラスティック袋の遺体寒いだろう

ミサ曲のような沈黙 空爆後

本五冊抱いてドンバスの老女逃げる

大鴉二羽が口づけ国境よ

このデジタル全体主義を蜘蛛渡る

ありがとうの「あ」のかたちなる朝日かな

胎児いま小海老ほどとや大地凍つ

生(あ)れし児の笑みのふるえに青田波

花火見るたびウンチする赤子かな

初雪や大人の真似をして五十年

空を仰ぐことができれば生きている

肌に風当たりてここを「地球」という

目瞑ればニホンただちに無人島

これがまあ地球限定の満月か

  以下、新韻律・五七三(「無垢句」)

木々に雪バッハの後の無音

地球を覆う人類という湿疹

悉く山の名忘れ服喪

ホモサピエンス無駄口多し芽吹

泣いている木 笑っている木 みな木

アイヌモシリの臍の緒きらり凍河

アイヌ語美(は)し雪解雫もラ行

陽炎を吸うために来たこの大地(ち)

天広く手のひら広くアイヌ

億万の蕾を抱え大地(モシリ)

舞う鶴の夢果てし無く旅寝

Paskur upas e / Paskur hopuni wa arpa / Retar puy (アイヌ語)