第58回現代俳句全国大会優秀作品発表

第58回現代俳句全国大作品作品応募数は、12,069句に達しました。このような状況の中でご投句くださいました皆様、本当にありがとうございました。皆様の力強い作品にささえられた大会となりました。心より感謝申し上げます。

現代俳句全国大会賞

方舟はこんなかたちと置くマスク    東京都 多田 せり奈

死んでから蛇重くなる棒の先      兵庫県 杉原 青二

毎日新聞社賞

にんげんをあるいていればしぐれけり  愛知県 朴 美代子

朝日新聞社賞

八月の修正液は火の匂い        東京都 山本 敏倖

産経新聞社賞

水かけて出水の水を押し流す      埼玉県 尾堤 輝義

東京新聞賞

太陽が捨てられてゐる夏休      神奈川県 三玉 一郎

読売新聞社賞

風花を小舟のように母が来る      福島県 清水 茉紀

俳句のまちあらかわ賞

蟬時雨わたくしたちは時間です     徳島県 油津 雨休

上記の各賞の作品評は『現代俳句』12月号に掲載します。

特別選者特選句

【宇多喜代子選】渾身の嬰の寝返り若葉光      福井県 柄谷せつ

【宮坂静生選】 戦争の隣ひまわり畑なり      兵庫県 木村オサム

【中村和弘選】 万緑や地鳴りの如く牛の尿     北海道 遠藤由紀子

【寺井谷子選】 草引いて無かったことにしてしまう 兵庫県 石原糸遊

【高野ムツオ選】死んでから蛇重くなる棒の先    兵庫県 杉原青二

【対馬康子選】 無いものを零と数へて日短     兵庫県 西村信子

【秋尾 敏選】 秋蟬や生きてゐるなら手を挙げよ 神奈川県 裏野四猫

【小林貴子選】 無いものを零と数へて日短     兵庫県 西村信子

【久保純夫選】 噴水や天にとどかぬ手のかたち   東京都 市原正直

【筑紫磐井選】 ファスナーを一直線に下げて夏   愛媛県 西野周次

【永井江美子選】泳ぎ出て天上天下首ひとつ    神奈川県 臼杵喜行

【後藤 章選】 水かけて出水の水を押し流す    埼玉県 尾堤輝義

【安西 篤選】 沢山のバンザイ沈む土用波     愛知県 山田哲夫

【池田澄子選】 草引いて無かったことにしてしまう 兵庫県 石原糸遊

【伊藤政美選】 八月の大きな靴が土間にある    愛知県 小南千賀子

【柿本多映選】 荒野行くための靴履く兜太の忌   長野県 小林貴子

【桑原三郎選】 死んでから蛇重くなる棒の先    兵庫県 杉原青二

【小菅白藤選】 次の世とこの世の仕切り障子貼る  秋田県 塚本佐市

【小檜山繁子選】耕して耕して子等遠くなる     千葉県 加藤法子

【鈴木正治選】 不確かな明日こそよけれ心太    静岡県 北邑あぶみ

【鈴木八駛郎選】村を捨て墓捨てられず蛍川     石川県 飯田順子

【舘岡誠二選】 戦死者の声風鈴となつて鳴る    東京都 樋口昇る

【辻脇系一選】 人生にまだ翡翠を待つ時間     東京都 松田ひろむ

【前川弘明選】 夏の水打てば被爆の土が吸ふ    香川県 島田章平

【前田 弘選】 ひらがながはじけて天の川になる  大分県 田口辰郎

【森田 廣選】 競ふことやめて海鼠といふ進化   東京都 日野百草

【山崎 聰選】 まるい音しかくい音も夏はじめ   東京都 栗原節子

【和田浩一選】 八月の蝶は合掌して止まる    神奈川県 山下遊児

特別選者特選句の作品評は『現代俳句』1月号に掲載します。

秀逸賞

耕して耕して子等遠くなる       千葉県 加藤法子
殺されに駆り出されたる村芝居     埼玉県 波切虹洋
遠足の子に太陽のひとつづつ      茨城県 塩谷きみこ
村を捨て墓捨てられず蛍川       石川県 飯田順子
行く水は行かせて桃は手のひらに    愛知県 杉山一川
沢山のバンザイ沈む土用波       愛知県 山田哲夫
滴りを山の力として祀る        愛媛県 井上論天
また一人死者とぶつかる桜の夜    神奈川県 町野敦子
もう誰も覗きにこない蟬の穴      愛知県 井平幸雄
八月のもっと尖っていい折鶴      東京都 平山道子
梟の貌になるまで推敲す        愛知県 小南千賀子
処暑の雨人間だけが鍵を持つ      新潟県 袖山リヱ
八月の大きな靴が土間にある      愛知県 小南千賀子
村の子はこれで全員盆踊り       京都府 岩成天風
狼も蛍もきれいな息をして       宮崎県 桑原淑子
折り鶴を開けば風の音ばかり     鹿児島県 秋山青松
競ふことやめて海鼠といふ進化     東京都 日野百草
浮いてこい子に戻りたる母を抱く    東京都 西本明未
夏の水打てば被爆の土が吸ふ      香川県 島田章平
子に送るどこでも買える蜜柑かな    三重県 伊藤眞知子
台風一過海ぞくぞくと星を生む     広島県 三軒鼻 恭
運動会むかでの靴の一つ脱げ     和歌山県 満田三椒
十年の除染土月光刺さったまま     大分県 有村王志
ふらここや地球を出たり戻ったり   神奈川県 原田洋子
徘徊の父は狐火ぶらさげて       沖縄県 おぎ洋子
白桃の二つ置かれてある平和      東京都 関戸信治
ぬるっとぬけた鴨鍋の葱みたいに老後  北海道 笹原瑞子
本籍地芒の中に消えており       秋田県 小林万年青
ラの音は外さぬやうに薔薇ひらく    宮崎県 赤須静子
無いものを零と数へて日短       兵庫県 西村信子

佳作入賞

八月の蝶は合掌して止まる       神奈川県 山下遊児
八月の脱いでもぬいでもまだ喪服     山口県 槇田敦子
雨乞のあった村から過疎になる      秋田県 小林万年青
初蛍被曝は人間のみならず        宮城県 小野 豊
八月やどの瓦礫にも本籍地        秋田県 森田千技子
炎天のほかはからっぽ本籍地       栃木県 石倉夏生
透析の管につながる冬銀河       神奈川県 西田みつを
ベトナムの青年は青鷺のまなざし     愛知県 永井江美子
河馬の歯を磨く園長文化の日       茨城県 中山久子
行先は八月六日バスに乗る        山口県 伊藤惠美子
人生にまだ翡翠を待つ時間        東京都 松田ひろむ
敗戦がありて終戦なき晩夏        長崎県 西 史紀
虹の根をたずねてゆかば火焔土器     島根県 森田 廣
幸せなひとから花野を後にする      宮崎県 桑原淑子
一本の螺子よ勤労感謝の日        茨城県 菅原仲江
退屈な人ほど開ける冷蔵庫        愛知県 小林久美子
マスク忘れて狼に囲まれる        福岡県 中村和男
片陰をマスクの俘虜として進む      茨城県 根本菜穂子
アインシュタイン目指せ舌出せこどもの日 埼玉県 近藤徹平
八月や正誤表無き人類史         東京都 平松尚樹
鉄棒を一回転して蝶になる        三重県 岡本千尋
軍艦をときどき沈め水遊び        福井県 髙石まゆみ
万緑や死は数となり棒グラフ      神奈川県 衣川次郎
ピカソの忌顔に右側左側         東京都 青木栄子
荒野行くための靴履く兜太の忌      長野県 小林貴子
寒卵告白ひとつ置いてゆく       神奈川県 西田みつを
蜘蛛の囲の破れ天安門忌かな       東京都 野上 卓
焼香のしんがりに来る雪おんな      愛知県 小南千賀子
人待てば待つほど白き沙羅の花      岡山県 秋岡宣子
草引いて無かったことにしてしまう    兵庫県 石原糸遊
夏草になってしまったかくれんぼ     岡山県 髙村蔦青
次の世とこの世の仕切り障子貼る     秋田県 塚本佐市
絵双六少年ふいに喜寿となる       東京都 宗近良一
声のする方へ流れる春の水        愛知県 加納寿一
春愁やマスクはどこか下着めく      東京都 林 暁兵
人に尾の名残蛍に火の名残        愛媛県 安部奈月
恐竜の卵ありさう草いきれ        埼玉県 柚木治子
バンクシーの風船壁を越えゆけり     千葉県 浪岡 玄
陽炎を抜けて戦後は戦前へ        大阪府 濵田 昭
赤の絵の具はとても臆病夕桜       三重県 大西健司
ふらここをぐんぐん漕いで言ふ本音    東京都 石田慶子
不確かな明日こそよけれ心太       静岡県 北邑あぶみ
でこぼこの地べた八月十五日       埼玉県 斉藤利彦
渾身の嬰の寝返り若葉光         福井県 柄谷せつ
ふと横に八月六日が来て座る       大分県 田口辰郎
兵役のなき生涯や麦を刈る        東京都 永井 潮
しゃぼん玉楽しいことだけ膨ます     福島県 丹羽裕子
小鳥来るやさしい時間置きにくる     兵庫県 山城馨子
風配るやうに並べて水羊羹        北海道 青山酔鳴
吊革に二百十日のあまたの手      神奈川県 西田みつを