第57回現代俳句全国大会優秀作品ほか

第57回現代俳句全国大会への応募句は、14,535句が集まりました。
熱心に俳句をお寄せくださいました皆様に、心より御礼申し上げます。
全国大会の大会賞ほか優秀作品などについてのオンライン句評会の様子は、12月20日以降インターネット上で公開いたします。

第57回現代俳句全国大会優秀作品

現代俳句全国大会賞
白シャツの青田の匂ひして乾く   徳島県 武市忠明

二人しか入れぬ木陰沖縄忌     三重県 岡本千尋

毎日新聞社賞
未来だけ見てゐた頃やソーダ水
   新潟県 柾木幸子

読売新聞社賞
ヴィーナスの誕生のごと木の根明く
 長野県 吉池史江

産経新聞社賞
どの子にも違ふ空ありしやぼん玉
  愛知県 杉山一川 

朝日新聞社賞
蛇は全長以外なにももたない
    東京都 中内火星 

中日新聞社賞
六十秒前の青空広島忌
       愛知県 有本仁政

俳句のまちあらかわ賞
履歴書を書かぬ一生種を蒔く
    石川県 飯田順子

特別選者特選句

宇多喜代子選 白シャツの青田の匂ひして乾く  徳島県 武市忠明

宮坂静生選  ヴィーナスの誕生のごと木の根明く 長野県 吉池史江

中村和弘選  催涙弾味のHongkong氷菓子    東京都 赤野四羽

寺井谷子選  六十秒前の青空広島忌      愛知県 有本仁政

高野ムツオ選 生きてゐる意味など問ふな冷奴  東京都 中川 肇

伊藤政美選  嘘泣きのゐるかもしれぬ涅槃絵図 福島県 平子玲子

秋尾 敏選  深呼吸して八月は肺の中     神奈川県 武良竜彦

対馬康子選  花野より二ホンゴキトクスグカへレ 愛知県 金子晴彦

小林貴子選  太陽のかたちに揚がる蕗の薹   三重県 向井泰子

安西 篤選  ゲルニカの画の傾きぬ兜太の忌  静岡県 村松道夫

池田澄子選  別れきて先ず手を洗う聖五月   千葉県 渡辺 澄

柿本多映選  たましいの重さ残して蟬の殻   東京都 小林和子

桑原三郎選  子の尻の穴まで洗ふ田植かな   愛知県 金子ユリ

小菅白藤選  死ぬことを忘れ百歳さくらんぼ  鹿児島県 上籠のり子

小檜山繁子選 八月やどこの寺にも兵の墓    愛知県 山田哲夫

鈴木正治選  未来だけ見てゐた頃やソーダ水  新潟県 柾木幸子

鈴木八駛郎選 白シャツの青田の匂ひして乾く  徳島県 武市忠明

長峰竹芳選  憲法記念日国旗にうらおもてなし 千葉県 徳吉洋二郎

前田 弘選  その時は泥付き葱を提げて行く  愛知県 小南千賀子

森田 廣選  蛇は全長以外なにももたない   東京都 中内火星

山崎 聰選  暑き日は暑き音なり鉄工所    東京都 栗原節子

秀逸賞

雁渡るブルーシートの屋根の上    岡山県 柏瀨眞理子
八月十五日鏡は拭いてある      東京都 山本敏倖
生身魂忘れものよりしづかなる    愛知県 中村正幸
原爆忌造花のごとき式辞かな     三重県 前田典子
にじになるまでおとうとをくすぐりぬ 兵庫県 木村オサム
月光に一番ちかい母の指       埼玉県 宮城留美子
命名の墨をたつぷり緑立つ      三重県 南川泰子
永らえておれば蚯蚓も亀も鳴く    大分県 成清正之
告白のすんだ蛇から冬眠す      東京都 青木栄子
うしろから不意の目隠し開戦日    奈良県 寺町容子
連翹の光の中へ産着干す       愛知県 宮地瑛子
裸木にゴッホの耳がついている    愛知県 宮地滋子
被災九年青田ぐいぐい濃くなりぬ   秋田県 佐藤二千六
八月の記憶の芯にいつも父      新潟県 近藤美好
遠火事を見てをり昭和見るごとく   愛知県 中村正幸
暑き日は暑き音なり鉄工所      東京都 栗原節子
嘘泣きのゐるかもしれぬ涅槃絵図   福島県 平子玲子
捕虫網まだ青空に掛けてある     北海道 信藤詔子
アフガンに薔薇を咲かせし蛇籠かな  福岡県 田口啓子
あなたかも知れぬ蛍を手に囲ふ    東京都 新井不二夫
陽炎に立つ原子炉の守衛かな     千葉県 浪岡はるか
八月やどこの寺にも兵の墓      愛知県 山田哲夫
虹を見し瞳のままに我を見る     愛知県 廣島佑亮
クレヨンに愛されてゐるチューリップ 三重県 向井泰子
人間をことりと留守にする昼寝    東京都 山本敏倖
十二月八日外の見えない会議室    三重県 前田秀子
誰一人触れぬほたるの貌のこと    兵庫県 木村オサム
かもめ抱いて少女式典の外にいる   大分県 瀬川剛一
憲法記念日国旗にうらおもてなし   千葉県 徳吉洋二郎
兜太亡きあとの秩父の蟇       岩手県 小菅白藤

佳作入賞

死ぬことを忘れ百歳さくらんぼ    鹿児島県 上籠のり子
人の死へ首振つてゐる扇風機     東京都 新井不二夫
枯れきってひまわり人間くさくなる  愛知県 朴美代子
トラック島金子兜太の半ズボン    埼玉県 後藤 章
十六夜やこころ死に行く妻と寝る   大阪府 森 教安
八月のずしんずしんとやつてくる   神奈川県 中岡昌太
ボタ山は昭和のかたち草いきれ    山口県 金澤萬里
並べ干す軍手地下足袋稲の花     兵庫県 辻本孝子
八月に飽きて大きな鯉の口      神奈川県 岩田 信
深呼吸して八月は肺の中       神奈川県 武良竜彦
雪明り陶土を寝かしつけるまで    大阪府 波多洋子
人はみな横顔持ちて遠花火      大阪府 山本左門
石鹸玉吹いてみんながいなくなる   岡山県 小西瞬夏
水打って仏となりし妻と居る     福岡県 太田一明
噛みしめる筈の歯が欠け昭和の日   新潟県 本間 道
卯の花やみんなゐなくなる遊び    愛知県 くにたみつる
桜咲くなんでもない日のにぎり飯   東京都 宮 沢子
人間にも人間の闇虫すだく      愛知県 稲垣 長
あっぱれな象のうんこに蟻の列    埼玉県 髙橋晴美
春光や磁石で探す木綿針       愛知県 渡邊淳子
眉間辺りにうすばかげろういて戦後  宮崎県 長友 巌
よく笑う嬰が掴んでいる五月     千葉県 森須 蘭
終列車入れて夜長の絵本閉づ     埼玉県 岡田一夫
助手席へ濡れ身のままに鮑海女    三重県 手塚泰子
端居して不要不急の人になる     三重県 中田洋治
団栗を呉れし漢の妻となる      兵庫県 竹嶋雅子
原爆忌ひと居ぬ街のひとの影     東京都 鋤柄杉太
爆笑の聞こえる写真晩夏光      岐阜県 細川敦子
草螢母はしずかに水になり      秋田県 武藤鉦二
行き場なき汚染のドラム缶灼ける   埼玉県 樽谷俊彦
覚めて寝て覚めて八月十五日     東京都 一井魁仙
手を入れて形となりぬ夏手套     長崎県 森 径子
子の尻の穴まで洗ふ田植かな     愛知県 金子ユリ
藁を焼く煙の中で長生きす      大分県 井上 治
開けるたびに白夜をこぼす冷蔵庫   栃木県 石倉夏生
遠い木に遠い落日夏休み       千葉県 塩野谷仁
大根の穴より畑の昏れはじむ     茨城県 大野ひろし
朝顔を数へてみんな征つたきり    東京都 樋口昇る
卵包む新聞八月六日         山口県 平川扶久美
桃咲いて村がそわそわしておりぬ   福岡県 中村重義
父の戦死母の戦後を蛍飛ぶ      東京都 赤澤敬子
形あるものに触れては風光る     愛媛県 上村扶佐子
星飛んで小さな螺子が落ちている   三重県 岩田典子
うららかやポケット多き子のズボン  三重県 上村えつみ
ビーカーにタンポポ防護服がある   三重県 大西健司
片蔭に入りて豹柄よみがえる     神奈川県 迪方温峇
推敲の果ての蛍に逢いにゆく     埼玉県 折原野歩留
お互いの尻の冷たさ敗戦忌      千葉県 秋谷菊野
毛虫焼く前世楊貴妃とは知らず    東京都 丸本 武
その時は泥付き葱を提げて行く    愛知県 小南千賀子
たましいの重さ残して蟬の殻     東京都 小林和子
噴水の去らむとすると立ち上がり   三重県 笠井かず枝
パセリ刻む付箋だらけの哲学書    三重県 宮原浩美
孤独死のあとにあまたの金魚鉢    愛知県 長谷川阿以
炎天を裏返したき午後三時      宮崎県 永田タヱ子