第75回現代俳句協会賞は秋尾敏氏に決定しました

当協会は6月27日(土)協会事務所に於いて、第75回現代俳句協会賞の選考委員会を開催し、以下のとおり決定しましたのでお知らせいたします。なお、一部委員につきましては、インターネットを介したウェブ会議システムにて参加しております。

本賞は、平成31・令和元年中に刊行された協会会員の句集の中から、第一次選考(32編)及び最終選考(12編)を経て、決定されたものです。

第75回現代俳句協会賞 秋尾 敏(あきお・びん)・句集『ふりみだす』 (本阿弥書店)

『ふりみだす』自選五十句   秋尾 敏

学校の柳が髪をふりみだす

つくし見落とす進歩的知識人

蛸を買った寂しい思い出を語る

生身魂銃後の虹を語りだす

われら残像光年の銀河の友よ

氷点となって音叉の張りつめる

冬深む秘すれば暗くなる旅路

窓秋忌声潜めれば紙乾く

開花宣言鞭持つ少女ぞろぞろと

亀の甲羅で戦前が灼けている

いろいろな飛行機が来る夏の空

風鈴の誰も覚えていない歌

忘れないための消しゴム原爆忌

掌に包むほどのいち日秋の暮

呼ぶ力離れる力冬の鳥

母の掌(て)の幾度も咲いて毛糸玉

羊雲丘の初日を食みに来る

コンビニを怖じる少年春の雨

矢車のいつまで紡ぐ雲の糸

蝙蝠の指で男を摑んで泣く

五月雨に降る白胡椒黒胡椒

川も昼寝か自転車が渡る

掬われて人間になる秋の水

女声合唱金木犀の息を吐く

つくつくぼうし私に入りきらない

振り向いたように微笑む捨案山子

下萌というしたたかな行進曲

入学の窮屈そうなパイプ椅子

噴水を落ちるばかりと見てしまう

海を見る人はんざきを置き去りに

松毬の囲む墓標へ蟻急ぐ

神仏に除染はならず油照

檸檬は鳥類てのひらで眠る

霧は道づれ戦後に長い裾野がある

大晦日夜は序曲のように来る

春愁よ空に足場を組むごとく

卯の花腐し書庫に刃物の二三本

枯枝と思わせておく我一句

陽炎の骨あるように立ちにけり

執念のような葉脈柏餅

ふかぶかと落暉末黒野は無中心

パン売りに来る驢馬がいて麦の秋

三角形何より強し大南風

垂直に自転車の立つ震災忌

毛糸編む有袋類のように母

凩のうしろ姿は海である

冬の夜へ紛れるためのプルトップ

寒雷の残像とめどなく暗し

持ち上げるための力学兜虫

雷兆す体よ僕に付いてこい

○選考委員氏名(五十音順)

恩田 侑布子、塩野谷 仁、高岡 修、照井 翠、前川 弘明、渡辺 誠一郎

○表彰式(予定)

令和2年10月25日(日)午後1時より名古屋市の「名鉄ニューグランドホテル」にて開催の第57回現代俳句全国大会席上にて。

*お問い合わせ 現代俳句協会事務局  電話03-3839-8190