第60回現代俳句全国大会と優秀作品発表

第60回現代俳句全国大作品作品応募数は、12,515句に達しました。
大会行事は、予定通り11月3日(金)に東京都台東区の東天紅にて開催いたしました。
ご投句くださいました皆様に厚く御礼申し上げます。

現代俳句全国大会賞

みんないて一人がいない終戦日   茨城県 浅野浩利

暗がりを遠き夜汽車のやうに蛇   静岡県 伊藤孝一

現代俳句協会会長賞

包帯は夕日のにほひ八月来     大阪府 押見げばげば

毎日新聞社賞

雑踏はいつも空腹鳥渡る      東京都 古寺ななえ

朝日新聞社賞

かぞえられて死は数となり霜の声  鹿児島県 秋山青松

読売新聞社賞

子よ撃つな子よ撃たれるなこどもの日 東京都 川崎果連

俳句のまちあらかわ賞

名をつけし日より金魚のよく泳ぐ  千葉県 浪岡 玄

特別選者特選句

【宇多喜代子選】一本は神に残して山櫻        北海道 平川靖子
【宮坂静生選】 炎天の何にも触れず戻りけり     大阪府 佐薙豊子
【中村和弘選】 平飼ひの鶏のしのしと梨の花     東京都 葛巻正樹
【寺井谷子選】 永遠の中の六日の水を打つ      香川県 島田章平
【高野ムツオ選】勾玉のごとくに母の昼寝かな     埼玉県 石原道明
【秋尾 敏選】 月白し膝に手を置く国家たち     千葉県 木之下みゆき
【対馬康子選】 月白し膝に手を置く国家たち     千葉県 木之下みゆき
【小林貴子選】 ねむのはなねむれころすひとにはならぬ福岡県 羽犬塚結
【永井江美子選】かぞえられて死は数となり霜の声  鹿児島県 秋山青松
【久保純夫選】 ゆくひともみおくるひとも慈雨のなか 北海道 小林ろば
【筑紫磐井選】 薪能終はりの影をたたみけり     東京都 宮村明希
【後藤 章選】 暗がりを遠き夜汽車のやうに蛇    静岡県 伊藤孝一
【安西 篤選】 折鶴の鋭角重ね八月へ        千葉県 松沢雅美
【池田澄子選】 初夢に黄泉を案内してもらふ     埼玉県 田口 武
【伊藤政美選】 勾玉のやうな足裏昼寝の子      徳島県 采見憲男
【桑原三郎選】 薄皮の地球たっぷり水を打つ     東京都 松田ひろむ
【小菅白藤選】 ふたり目を産んで麦藁帽似合う    秋田県 五代儀幹雄
【鈴木正治選】 はるかなる兜太の水脈や夏霞     東京都 川崎果連
【舘岡誠二選】 はるかなる兜太の水脈や夏霞     東京都 川崎果連
【辻脇系一選】 蜩や湖底に残る通学路        千葉県 座間 等
【前川弘明選】 たましひの歩けば動く枯野かな    愛媛県 板倉肱泉
【前田 弘選】 みんないて一人がいない終戦日    茨城県 浅野浩利
【山崎 聰選】 愛薄く生きて秋刀魚の腸苦き     三重県 豊田正博
【和田浩一選】 合唱の白きブラウス原爆忌      福岡県 松本逸朗

秀逸賞

万緑へ母を押し出す車椅子     東京都 石口 榮
母の日の母長生きを詫びにけり   兵庫県 小崎愛子
雪降れば雪の匂いの出雲和 紙   東京都 加藤倶子
西瓜切る風のいっぱい入る家    東京都 石口りんご
もう空を入れる余地なき青田かな  愛知県 杉山一川
いちめんのひまはりいちめんの死体 香川県 島田章平
ふたり目を産んで麦藁帽似合う   秋田県 五代儀幹雄
馬鈴薯がごろんごろんと人類史   兵庫県 龍田山門
すまないがそこは銀河の非常口   東京都 関戸信治
一人暮し今日は山椒魚だった    兵庫県 若森京子
原爆忌そこにはいつもいる兜太  神奈川県 持田市朗
噴水や濡れれば人はまづ笑ふ    愛知県 山田和歌子
ねむのはなねむれころすひとにはならぬ 福岡県 羽犬塚結
涅槃図に少し捲かれた象がいる   秋田県 小林万年青
草も木も立つてゐるから雪が降る  北海道 新出朝子
にんげんの出口探して青き踏む   東京都 山本敏倖
普通の木に普通の鳥の来て日永   千葉県 黒澤雅代
鶴だけは折れる八月のごつい   鹿児島県 愛甲敬子
白桃はどこを剝いても静かなり   大阪府 髙橋もこ
故郷は出口ばかりの四月尽     秋田県 佐藤二千六
白日傘すれ違ふとき風になる    埼玉県 久下晴美
献体の妻の帰還や菊日和      長野県 林 正山
妻のにおい薄れゆきたる冷蔵庫   大阪府 森 教安
十二月八日玄関叩く音       山口県 津森敏伸
好きなだけ時間戻して夕端居    福井県 中山慶子
人肌に近き雨なり桜桃忌     神奈川県 安部衣世
梅雨夕焼人は影絵のやうに老い   兵庫県 小崎愛子
百年の家に夜干しの梅匂ふ     千葉県 座間 等
蜩や湖底に残る通学路       千葉県 座間 等
少女みなカルキの匂い大西日    東京都 加那屋こあ
影もまた生まれ立てなり目高の子  東京都 本杉康寿

佳作入賞

耕して真水のように生きている   徳島県 中川秀司
もう一度美術部覗き卒業す     長野県 吉池史江
折鶴の鋭角重ね八月へ       千葉県 松沢雅美
下萌を蹴りつつ電話してをりぬ   埼玉県 後藤 章
雪がふる話のつづきするやうに   北海道 赤繁忠弘
逃げ水の先へ戦車が来はせぬか   山口県 竹本チヱ子
この星の滅びる前に土筆摘む    愛知県 田中の小径
ピマンの肉詰め愛は焦げやすい   埼玉県 渡邉樹音
水中花水が疲れて死んでおり    茨城県 髙橋和彌
原発圏内秋風圏内現住所      新潟県 水野宗子
炎天の何にも触れず戻りけり    大阪府 佐薙豊子
秋簾あぶな絵しまふやうに巻く   広島県 三軒鼻恭
遍路みな食後の薬飲み始じむ    千葉県 保坂和郷
一本は神に残して山櫻       北海道 平川靖子
永遠の中の六日の水を打つ     香川県 島田章平
もう誰もいない枯野に倒立す    東京都 川崎果連
はるかなる兜太の水脈や夏霞    東京都 川崎果連
祈る時人は無防備曼珠沙華    神奈川県 菅沼葉二
夜濯や背番号なきユニフォム    東京都 川崎果連
初夢に黄泉を案内してもらふ    埼玉県 田口 武
八月六日ポケットに砂漠がある   栃木県 神山姫余
耳という大きな器夕焼ける     福岡県 中村和男
ミサイルも草矢も放つ地球かな   福島県 湯田一秋
蘩・御形・薺・芹蔞ここは廃村   愛知県 原しょう子
だんまりも静かな言葉夕焚火    愛知県 杉山一川
血の色の句集「広島」風死せり   広島県 藤本陽子
薪能終はりの影をたたみけり    東京都 宮村明希
陽炎の中へと廃炉作業員      福島県 永瀬十悟
この村にこの子が一人夏休み    山形県 佐竹伸一
夏きざす少し不幸な人が好き    東京都 佐藤あきえ
宵祭誰かが枕の中通る       東京都 関戸信治
逃げ水にたどり着くまで生きてみる 福井県 石田秋桜
改札を出て夕焼けにつきあたる   福岡県 中村重義
告白のはじめはからすうりの花  神奈川県 栗林 浩
戦没の小石一つの墓洗ふ      東京都 谷川 治
父は記憶母は思ひ出扇風機    神奈川県 三玉一郎
空蟬や最後に抜いた足上げて   神奈川県 黒田さとみ
家屋全壊梅干の壜無疵       千葉県 佐藤映二
がんの妻がんの夫に枇杷をむく   山口県 樋口和年
月白し膝に手を置く国家たち    千葉県 木之下みゆき
愛薄く生きて秋刀魚の腸苦き    三重県 豊田正博
長閑けしやバスが人待つ峡の昼   愛知県 渡邊淳子
八月のどの戸もすぐに開く不安   北海道 粥川青猿
薄皮の地球たっぷり水を打つ    東京都 松田ひろむ
帰れない帰りたくても福島忌    静岡県 村松道夫
月光に触れゆく手より老いゆけり  福岡県 山本則男
蒲公英の絮とびたれも傷つけず   兵庫県 小野慶子
部屋ごとに誤差ある時計八月来  神奈川県 瀬尾あき子
太古より歩いて来たと茄子の馬   東京都 山本敏倖
つばめつばめ誰が兵器を売ってるの 東京都 利光知惠子
写真みな生前の顔夏館       東京都 坂田晃一
炎天の誰も使わぬ歩道橋      大阪府 久保彩

学生の部 正賞

【神野紗希選】 ファルファッレは飛ばない夏は留まらない 荻野登理

【瀬戸優理子選】爽籟や眉剃り上げし演劇部        山月 恍

【曾根 毅選】 飛び石のそれぞれにゐる小鳥かな     榎本佳歩

【田中亜美選】 廃れゆく言語や金魚翻る         鎌田彩海

【野口る理選】 落丁にいまだ出会わずヒヤシンス     赤松優一

【堀田季何選】 ファルファッレは飛ばない夏は留まらない 荻野登理

学生の部 准賞

【神野紗希選】
新歓のビラ踏まれゆく教授の忌  森田雪虚
簡単に終われる日々や猫飼ひたし 山中はるの
砂上の鯨骨未来を知ってゐる   瀬野竜旺
太陽系に眠る甘酒屋のおやじ   林 和弥
帰省する田舎はなくて夜の橋   三浦彩絵

【瀬戸優理子選】
「自己中」と診断結果蜜柑剥く  千田とまと
惑星に居住限界あり冬日     疋田 纏
そしてまた車輪の下の野菊かな  池内 陽
嘘嘘嘘バームクーヘン切つて冬  杏夜
石膏の顔捨てられし木下闇    渡邊広脩

【曾根 毅選】
朝顔の喉仏なく咲きにけり    滝本圭佑
天道虫迎へが来るまでの本屋   齊藤健太
爽籟や眉剃り上げし演劇部    山月 恍
遮断機のしばらく揺れて花火かな 大杉悠真
父のきて静かになりぬ炬燵かな  大槻千明

【田中亜美選】
そしてまた車輪の下の野菊かな  池内 陽
コスモスや潮の匂ひの靴洗ふ   久磨瑠
この水も四海へ往かん髪洗う   新田ひろ
机全部さげた教室冬隣      西野奏子
枯蟷螂泪湛へてゐる琥珀     岡本龍太郎

【野口る理選】
ハンモック空を見上げるしかなくて 齊藤健太
折鶴につんと嘴冬の星      佐藤知春
水滴のほつれて虹や沈没艦    磐田 小
ファルファッレは飛ばない夏は留まらない 荻野登理
この水も四海へ往かん髪洗う   新田ひろ

【堀田季何選】
ゼリーなら痛くないから大丈夫  音無早矢
吐き気に似て朝焼雲の凹凸    及川華凛
夏痩せの手がブルースを書き殴る 荻野登理
はんなりと自傷痕から毛が生えた 北出航太朗
夕凪や時が戻ろうとしている   宇都宮駿介