ソワソワ

山戸則江

 立春を過ぎてもまだまだ寒さは厳しいが、「春」の声をきくと心がソワソワする。ふきのとう、たらの芽、つくし、よもぎ・・・。「まだまだ寒いね~」と言い合っている間にも、ふるさとの野山では春の芽吹きがむくむく始まっていると思うと、居ても立っても居られないのだ。

 数年前から実家の母、次に父の介護が必要になり、たびたび山口へ帰省するようになった。最初は長距離移動と家事とに疲れ果てていたのだが、次第に余裕もでき、子供の頃のように野山を歩く時間が楽しい。家のまわりに果樹を植えるのが好きだった母のおかげもあって、夏は枇杷、いちじく、秋は栗、冬は柿、柚子と、季節ごとの収穫が楽しみになった(しかし近年は鹿等の害獣との闘いが大問題)。

 なかでも一番楽しみにしているのは「たけのこ掘り」。子供の頃からなぜかたけのこ掘りが大好きで、当時はペットの犬や猫をお供に一人でも山に出かけたものだった。山林の一角にある竹林の、粘土質で黒い地中からほんのわずか頭をのぞかせているたけのこを足裏で見つけるのが得意で、大人になった今でもワクワクするのだ(これもまた害獣に先に食べられては悔しいので、毎年競争である)。しかし昨年は張り切りすぎてたけのこ掘りが原因で腕を痛め、テニスをしないのに「テニス肘」になった。整骨院やストレッチで少しずつ回復したが、全快には一年近くを要した。今季は食い意地はほどほどにしたいと思う。

 たけのこの旬は、庭の山椒の芽吹きが教えてくれる。山椒の柔らかな新芽が出そろった頃が、たけのこの出始めである。春の味覚の旬は短い。この原稿を書きながら、どうにもソワソワしている私である。