瀬間陽子『新潮文庫の栞紐』
定価 1700円+税 2023年10月6日発行 帯なし 装丁/小島真樹
最年少の27歳で第18回(平成12年度)の現代俳句新人賞を受賞した著者。その後、中断の時期を経て、持ち前の詩性、文学性の強い資質がさらに深まり、新たな趣も加わってきた。
蛤につられて舌を嚙んでしまう
劇団員折り重なって西日塗る
亡き人に体当たりして踊かな
蟷螂のしたはんぶんの仄暗さ
冬鷗ケーキを運ぶように来る
新潮文庫の愛はげしくて三日かな (出版部選)
兜太現代俳句新人賞シリーズ3
土井探花 『地球酔』
2000円+税 2023年11月7日発行 表紙イラスト/田島ハル 装丁/小島真樹
ひきがへる地球は誰の遺作だらう
朝顔で戦争が見えない中、パンジーが幕府をひらく話が出て、
地球は夏を繰り返す。季節も社会も混迷し、轡虫と蛙は昏迷する。
そう、地球酔だ。酩酊の蛙が蟇になる頃、
ヒトだったぼくは花の陰でゆっくり退化する……。
最高にポップだけどインディーズ、しかもロック!
空前絶後の探花ワールドに、あなたも酔ってみませんか。
ー堀田季何
どうでもよいひととけつこうよい花火
春月の呼吸聞こえるほどやまひ
あなたとは違ふ海市を見てゐたの
おとうとを入れつぱなしのむしごです
薄つぺらい虹だ子供をさらふには
シリウスの銀緯に父を放てたら
白日を囀だつたものが降る
轡虫あなたも地球酔ですね
春コート星の腐臭がどうもとれず
鳥だつた記憶が蝶を食ひさうで
橋本喜夫 選
兜太現代俳句新人賞受賞シリーズ・2
小田島 渚 『羽化の街』
定価2200円+税 2022年10月23日発行 装丁/小島真樹
清新な抒情と表現に対する冒険心 小林恭二
意外性の中にある異界の論理 穂村 弘
みなかみに逝きし獣の骨芽吹く
子猫から子猫分裂したやうな
足生えて歩き出す岩はたた神
背中にも眼のある巨人青嵐
現身を欲して鹿の子の水辺
日輪のほどけし南瓜スープかな
蹄より馬は火炎に天の川
血だまりのごともつれ合ひ秋の蛇
あをぞらの果実捥ぐかに氷柱折る
やがて鳥の心臓が生む冬銀河
高野ムツオ 10句選
電子書籍版はこちら
金子兜太現代俳句新人賞シリーズ・1
北山 順 『ふとノイズ』
頒価 1500円 2021年7月7日発行 装丁/小島真樹
「省略」に加えて「含羞」もまた順俳句の特徴であり魅力である。(今井 聖「序」より)
人工の水草灯る蝌蚪の国
フライング気味に巣立つてゆきにけり
部屋でなく服でなく吾の黴びてをり
それぞれの部活の柄の日焼かな
鍵盤を拭ふ帰省の二日目に
一族の端役全うとろろ汁
鹿よぎる夜や製本の美しき
ガス台が傾いている流れ星
晩秋の炭酸感の無い男女
冬林檎そもそも平熱が違う
義士の日のテディベアよりふとノイズ
骨盤を揺らして大根おろしけり
毛糸編む土足禁止のネットカフェ
唇は歪なパーツ雪催
遊びから次の遊びへ風花す
(出版部部長 津髙里永子選)
句集『揮発』 新鋭シリーズ・5 柏柳明子
(定価1,500円(税込) 2015年9月刊)
柏柳明子さんの句稿に目を通していたら、高村光太郎の詩「道程」がごく自然に口をついて出てきた。明子さんの家庭環境も、俳句をつくるべくしてつくる、そういう日常にあったらしい。彼女の中の俳句の五七五のリズムが、DNAとして浸透していったのだろう。
俳句の道が、彼女の後ろに、ごく自然にひらけていったのではないかと思う。 ──石 寒太
自選十句
初夢の続きのやうな道のあり
ふらここやいきなり君が好きになる
ヒヤシンス潜水艦の設計図
緋のダリアジャズシンガーの揮発する
銀河系ピアノのペダル踏む素足
生ビール輝きながら来たりけり
好きなものいふとき小声吾亦紅
烏瓜ぱちんと心療内科かな
終業の冷たき靴へ履きかへる
大寒や横向いてゐる人体図
大井恒行の日日彼是: 柏柳明子「地下鉄の二秒で消える夏の空」(『柔き棘』) (ooikomon.blogspot.com)
句集『犬の眉』 新鋭シリーズ・4 岡田由季 妻恋坂書房で販売中
(定価1,500円(税込) 2014年7月刊)
もし俳句をつくっていなかったら、
当然に見過ごしてしまっていたに違いないような
事柄・瞬間・感触・感動などのひとつひとつが、
岡田由季という俳句作家の眼を通して、
俳句という形に見事に顕れている。
そこに彼女の独自性がある。 ──石 寒太
そら豆や楽しく終はるずる休み
間取図のコピーのコピー小鳥来る
遠足の別々にゐる双子かな
花水木荷物と別に来る手紙
犬の眉生まれてきたるクリスマス
どのボタン押しても開く初御空
青鮫の来るほどシンク磨きけり
帚木の好きな大きさまで育つ
ひとりだけ言葉の違ふ茄子の紺
空蟬を集めすぎたる家族かな
(自選十句)
閑中俳句日記(別館) -関悦史-: 【十五句抄出】岡田由季句集『犬の眉』 (typepad.jp)
句集『ユリウス』 新鋭シリーズ・3 佐々木貴子 妻恋坂書房で販売中
(定価1,500円(税込) 2013年11月刊)
著者の葛藤と否定精神
肯定精神が目まぐるしく錯綜し
作者の最も秀れた映像感覚は
この句集全句に共通している ──中村和弘(序文より)
バラ咲いてひどく自由な昼下り
夏の都へ拝啓冬の国より恋
紫陽花の半陰陽が海の丘
脳みその北半球へ冷やっこ
天泣や土偶の洞が火(ホ)と叫ぶ
口笛の終は風なり冬の駅
風船の男をぷっと刺す師走
百億の雪やたちまち青に帰す
ぼろぼろと雪が剝がれて鉄の空
あたしⅩあなたY軸春疾風
大井恒行の日日彼是: 佐々木貴子句集『ユリウス』・・・ (ooikomon.blogspot.com)
句集『鳥飛ぶ仕組み』新鋭シリーズ・2 宮本佳世乃
(定価1,500円(税込) 2012年12月刊)
彼女にとっての俳句とは、いったい何なのだろうか。触れることの出来ないものに必死に手を伸ばし、それをつかもうとする・・・。その手段のひとつとして俳句があるように思われる。彼女は「俳句をつくっている時間は、どこか別の場所に行っているように心地よいのだ」という。本当にはじめて会った時に直感した通りの、まさに“俳句人間”なのである。 (石 寒太)
はつ雪や紙をさはつたまま眠る
ふゆざくら山のうしろのとんびの巣
あわゆきのほどける音やNHK
まもなく三鷹曇り空のうぐひす
若葉風らららバランス飲料水
ひまはりのこはいところを切り捨てる
鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに
泉泣きながら釦だらけの谷
土曜日が終はらぬやうに踊りけり
生きてゐるからだのあまり葛の花