第17回現代俳句協会年度作品賞受賞作品
「水辺の獏」 長井 寛(ながい・かん)

雪掘って一菜とせり蕗の薹
鈍色の鍋蓋の黙木の根明く
天平の甍寄り添う寒の入
山寺の千のきざはし吊し雛
抗うて風の容ちになる薄氷
鬼遣己がこころを棲み処とす
陽炎に入る機関車の浮遊感
一頭づつ浮雲になる紋白蝶
渦を巻く土耳古コーヒー春愁
産土の貨車を数えている遅日
新刊に腰帯空に桜東風
白夜来て水辺の獏の食む睡夢
大山椒魚邪馬台国の地を揺らす
つばくらめ大言海を越えんとす
道野辺の草のテアラや風信子
大海人皇子幣振る海開き
飛石を踏んで極暑を遣り過ごす
尺取の越すにこせないランズエンド
翡翠の後ろの正面水鏡
ポンポンダリア幼子のする逆上り
清廉の水より生るる江戸切子
回り道して知る己が道榠樝の実
彳亍(てきちょく)のままの孑孑子規の庵
秋出水方舟の着く安達太良山
川の水澄み言の葉にある虚実
ラ・フランス骨太の字の手紙受く
豊満な志功の菩薩木守柿
一葉の言霊になる冬もみじ
(やや)もすれば鮟鱇だったかもしれぬ
残照の膨らんでゆく寒雀

 

【受賞者プロフィール】
◇長井 寛(ながい・かん)(本名 長井寛三)
 
・昭和21年3月27日新潟県生まれ(70歳)
・昭和44年(1969)獨協大学外国学部卒業後、出版社の研究社に入社。
・平成14年(2002)『新英和大辞典』などの辞書編集の勤務の傍ら、「轍」「百鳥」「十七音樹」に入会、その後退会。
・平成20年(2008)研究社退社後、「遊牧」に入会。
・平成23年(2011)第12回現代俳句協会年度作品賞佳作。
・平成25年(2013)第14回現代俳句協会年度作品賞次席。
現在、「遊牧」同人、現代俳句協会会員。

 
 
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は掲載時点のものです。