第18回現代俳句協会年度作品賞受賞 神田ひろみ 「われを去らず」30句

◇神田ひろみ(かんだ・ひろみ)(本名:同じ )
・昭和18年(1943)11月29日 青森県生まれ(73歳)
・三重県津市在住
・昭和51年(1976)「寒雷」入会、加藤楸邨に師事。
・平成  2年(1990)「槌」(小檜山繁子代表)入会。
・平成23年(2011)第31回「現代俳句評論賞」受賞。
・平成27年(2015)「寒雷賞」受賞。
・現在「寒雷」同人。 文学博士。
・句集等 『虹』『風船』『まぼろしの楸邨―加藤楸邨研究』
 
 
第十八回現代俳句協会年度作品賞受賞作品 
「われを去らず」 神田ひろみ
 
田起しの息整へて打ちはじむ
胸に起つ小さき怒濤沙羅の花
大壺の底ざらざらと驟雨去る
伴大納言絵巻の中も夕焼けぬ
かやつり草裂けば柩の奥匂ふ
青田原走つて来る子手が翼
膝濡れて自由な時間紅睡蓮
父に一行の軍歴地のあかざ
藍の糸縞になりゆく涼しさよ
万緑の嶺したがへて来迎図
処暑過ぎぬ街三角の景に満ち
  おくのほそ道  五句
大蓼の花や那須野に馬を見ず
かさねといふ少女帚木紅葉かな
ひやひやと陸奥に入るふくらはぎ
白河の関絢爛と稲つるび
義経記の地を這ふごとく秋の雷
色彩を遣ひ果して葉鶏頭
秋泉のひとり激してひとり止む
月明の子規の机はΣ(シグマ)かな
厄日過ぐ身を締むるものみな外し
声出さば吾も観世音紅葉中
冬蕨掌に金色の古生代
濃く淡くBの鉛筆寒雀
遠ざかるとき桃源となる梅林
縞馬の縞がくらくら涅槃西風
われを去らず三月十一日の水
春しぐれ恵心僧都に泣き黒子
いづこかへ去る身なれども暖し
沈丁花夢に匂ひのありとせば
平家琵琶耳は朧をぬけられず
 
 
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は掲載時点のものです。