第21回現代俳句協会年度作品賞  黒沢孝子「夜桜」30句

◇黒沢孝子(くろさわ・たかこ)(本名:同じ)
・1942年(昭和17年)6月21日 長野県生まれ(78歳)
・1993年(平成5年)「岳」俳句会入会、宮坂静生に師事
・2004年(平成16年)「岳」第18回S氏賞受賞
・2007年(平成19年)「岳」第8回ケルン賞受賞
・2009年(平成21年)「岳」第26回前山賞受賞
・現在 「岳」俳句会同人、現代俳句協会会員
・句集 『雪解星』(2006年8月刊)

第21回現代俳句協会年度作品賞受賞作品
「夜桜」  黒沢孝子

雪吊のままに白梅匂ひけり
ふらここに揺らす胎児や海光る
出帆の銅鑼や俄に春吹雪
初桜をみなにはつか喉仏
夜桜の先へ先へと白狐かな
緬羊を集める笛や山桜
しやぼん玉吹けば抜けゆくさみしさよ
五月来る瞑りて亀のはかりごと
地に還す骨に仄かな紅(こう)薄暑
はんざきの孵化してさうな月夜かな
明日競ふ馬の昂り八ヶ岳は夏
梅雨山河棺に入るるパスポート
噴水の撃たれしごとく崩れけり
炎天へ耳を忘れて来たるやう
一本の杭に昂る黒揚羽
泣き顔のやうに打上花火果つ
新涼やひとつ仕上がる竹の笊
蔓引けば懺悔のごとく露どつと
露けしや鴉の嘴に光るもの
桃の皮みづから衣を脱ぐごとく
頭髪は最後に死ぬるつくつくし
秋冷の灯絶やさずかりもがり
ひと日死をひと日桔梗を思ひたる
火の山の噴きたり葡萄食べ頃に
子の消えし海へ桜の返り咲き
初鴨や秤の上の赤ん坊
一遍のごとく向日葵立ち枯るる
初神楽その夜狐と遊ぶ夢
どんど焼船酔ひしたる心もち
晩餐や氷柱の中のレストラン