夢の目撃者
─ドイツの俳句
👤木村聡雄
夏草は
すべての死にゆく者たち夢を
死に告げる
トマス・ヘムステッヘ
Die Sommergräser
künden dem Tod die Träume
aller sterbender.
Thomas Hemstege
ドイツのマルティン・ベルナー編アンソロジー『夏草』 (Sommergras) から。
前回同様、ここでも芭蕉の「夏草」の句のヨーロッパ的変奏句である。
元の芭蕉句では「夏草や」で切ってあるが、作者はこれをあえて主体として、夏草が死に対して (dem Tod) 死んでゆく兵士らの夢を (die Träume~) 語る状況へと置き換えている。
確かにヨーロッパにおいても夏草こそがいくつもの凄惨な戦さの目撃者なのである。
兵士らの夢を奪いさる擬人化された「死」を諭し告発しているかのようではないか。
この芭蕉句に見られる無常観は、わが国のみならずヨーロッパにおいても古く中世から語られ、次の十五世紀中世フランス詩はここ日本でも読みつがれてきた。
さはれさはれ、去年の雪、いまは何処
フランソワ・ヴィヨン『遺言詩集』〈古の貴女を称えるバラード〉(鈴木信太郎訳)
私は中世英文学を学んでいたのでヨーロッパの中世に惹かれるものがあった。
ヴィヨンにはいくつか翻訳が存在するとはいえ、個人的には鈴木信太郎による擬古典的な訳文の儚い響きに勝手に浸っていたのであった。
このヴィヨンの詩には詩人天沢退二郎による新たな和訳もあるが、天沢自身からヴィヨンやアーサー王にまつわる聖杯伝説など中世仏文学の話を直接あれこれ聞いたことも思い出される。
冒頭の引用句は無常観をそうしたヨーロッパの伝統に重ねて描き出した一句と言えよう。
(俳句和訳:木村聡雄)
[Witness to Dreams――Haiku from Germany Toshio Kimura]