「わたしの一句」鑑賞
👤杉美春

現代俳句2026年03月号掲載     撮影者:岡井剛

「春の日」は、春の一日のこと、および春の日の光のことで、「春日影」はその傍題。
よく考えれば不思議な季語である。
春のうららかな明るい光を言いながら、その日影に焦点を当てているのだから。
明るさの中の翳り、だが翳っていても暖かい。晩年とはそんなものかも知れない。

メタバースは、「超(メタ)」と「宇宙(ユニバース)」を組み合わせた造語。
コンピューターの中に構築された3次元の仮想空間やそのサービスを指す。
日本では主にバーチャル空間の一種で、利用者はオンライン上に構築された3次元の仮想空間に思い思いのアバターと呼ばれる自分の分身で参加し、買物や商品制作・販売などの経済活動を行ったり、そこでもう一つの「現実」として新たな生活を送ったりすることができる、という。

掲句は春日影=老いの仮想空間だという。
不思議な感覚の句であり、読み手によってさまざまな解釈が可能だろう。
「老い」というアバター(実は老いとは無縁)が春日影という仮想空間で遊んでいる、とも読めるのだ。

私ことだが、初学の頃の師から「俳句は表現が新しいか、言葉が新しいか、発見があるか」が大切だと教えられた。
表現の新しさ、言葉の新しさ、掲句はまさにそれを追求しているように感じられる。

「海程多摩」第24集(2025)に、もうひとつ仮想空間の句があるのを見つけた。

虫の音の仮想空間匂うなり
             安西篤

安西篤さんは、昭和7年三重県生まれ。
今年94歳になられる。
昭和32年に「胴」同人、昭和37年に「海程」入会、金子兜太に師事。
昭和59年~62年まで「海程」編集長。
2014年、『秋の道(タオ)』で第69回現代俳句協会賞を受賞されている。
受賞作の自選50句の中に、〈戦後とは次の戦前多喜二の忌〉がある。
まさに今の時代、私たちは新たな戦前に生きている。