【特集】
\第26回現代俳句大賞/
🎊坪内稔典🎊
第26回現代俳句大賞は、2026年1月28日(水)選考委員会において決定。
本賞は幅広く協会の内外より現代俳句の興隆に貢献した方々を顕彰するもので、現代俳句の最高位に位置付けされる賞です。
🏆第26回現代俳句大賞 受賞
坪内稔典(つぼうちねんてん) 俳人

受賞者プロフィール
👤坪内稔典(つぼうちねんてん)
大阪府在住 愛媛県生まれ 81歳
📝略歴
大学時代に全国学生俳句連盟結成。
同人誌「日時計」「黄金海岸」を経て1976年「現代俳句」創刊、1985年の終刊まで編集・発行人。1985年「船団」を創刊、2019年解散まで「船団の会」代表。
2023年、晩節の言葉を磨く場として「窓の会」を結成。
受賞は2000年京都府文化賞功労賞、2001年中新田俳句大賞スウェーデン賞、2010年桑原武夫学芸賞、2020年兵庫県文化賞など。
現在は、「窓の会」常連、俳諧・俳句のコレクション「柿衞文庫」の理事長。
📚評論・エッセイ
『過渡の詩』(牧神社1978年)
『正岡子規 言葉と生きる』(岩波書店 2010年)
『坪内稔典コレクション』(全3巻、沖積舎2010年~2013年)
『俳句いまむかし』(毎日新聞出版2020年)
『老いの俳句』(ウエップ2023年)
『高浜虚子 余は平凡が好きだ』(ミネルヴァ書房2024年)
『モーロク日和』(創風社出版2025年)
『正岡子規の百首』(ふらんす堂2025年)
📚句集
『ヤツとオレ』(KADOKAWA2015年)
『水のかたまり』(ふらんす堂2008年)
『リスボンの窓』(ふらんす堂2024年)
『河馬100句』(象の森書房2025年)
【特集】
\第26回現代俳句大賞/
自選30句から一句評
坪内稔典氏による「自選30句」は『現代俳句2026年4月号』に掲載しています!
👤遠藤寛子
せりなずなごぎょうはこべら母縮む
坪内稔典
一句評だが続くもう一句を無くしては語れないので二句評となることを御許し願う。
ほとけのざすずなすずしろ父ちびる
坪内稔典
一句ずつでも面白いが、二句揃って益々面白味が増す。
日本人の誰もが知っている七草のお決まりのフレーズは家族で過ごす1月7日の朝を思い起こさせる。
作者は七草粥を準備する背の縮んだ母を見て、年を重ねたなあとしんみり。
作者の傍らで父はちびり、これまた年を重ねたなあとしんみり。
年齢とともに特に女性は平均8センチも縮むらしい。
また男性の多くは前立腺肥大になるらしい。
いずれも女性ホルモンや男性ホルモンの減少が原因だったりするようだ。
さて、これらの句からは作者の母と父へのかわらぬ愛と信頼が発せられ鑑賞者のこころを温めてくれる。
そして、リズミカルで思わず口ずさみたくなる高い中毒性があることは言うまでもない。
👤久保純夫
たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ
坪内稔典
作ってしまったらその俳句の解釈は読み手にゆだねてしまう、というのが常なる坪内稔典の主張である。
その謂いに従って、ここでは、思い切り自由に書いてみよう。
この句は、火事、以外すべてひらがなである。
それが読み手を自在にさせる最大の理由であろう。
ぽぽ、はたんぽぽの下半身である。
で、たんぽぽ、はどこで区切って読むのか。
➀「た んぽぽ」
②「たん ぽぽ」
③「たんぽ ぽ」、この三種類。
➀のた、にはさまざまな漢字を当てることができる。
田・他・多・手…。
んぽぽはリズム。
②も同様に譚・単・短・胆…。
ぽぽ。
ほの半濁音。
濁音はぼ。
やはり下半身か。
そのあたりを組み込むとあらゆる像が紛れ込む。
③は担保・湯婆。
ぽに促音を前後につけると、っぽ、ぽっ。
なにやら雰囲気が変わる。
このように、好きに区切って読むと、作者好みの像がその時どきに立ち現れる。
したがって「火事」はいかにもこの俳句の根幹であると理解できる。
斯様に、坪内稔典のひらがな表記は油断ならない。
👤久留島元
桜散るあなたも河馬になりなさい
坪内稔典
坪内氏の代表作のひとつだが、創作の講座で取り合わせを説明するときには、いつもお世話になっている。
中七下五の呼びかけは、優しげだが全く意味が分からない。
しかし春の空気感で読むと、間の抜けた、あたたかい雰囲気が伝わる。
野生の河馬は意外と敏捷で獰猛という話もあるが、動物園で池に浮かんでいる姿は、傍目には暢気そうである。
また、強かで、物事に動じない頼もしさも感じられる。
同じ春でも春愁とか、朧夜の世界ではないのである。
この句を読んだある学生が「すごくピンクの世界」と鑑賞してくれた。
実際の河馬は赤黒いような肌色だが、絵本やアニメではピンクのイメージがある。
そう、この河馬はそういう河馬。
舞い散る桜の花弁とともに、現実をふわりと離れた世界に遊ばせてくれる、そういう句なのである。
俳句という言葉遊びの楽しさ、意外性を見せてくれる句なのである。
だからこの句は、俳句の入り口として最適な句なのである。
👤佐藤日和太
そのことはきのうのように夏みかん
坪内稔典
俳句ならではの「多様な解釈」の面白さがあふれる一句です。
読者一人ひとりのこれまでの経験によって、目の前に思い浮かぶ情景がまったく違ってきます。
句会でそれぞれが感じた景色を語り合えば、きっと会話が弾むことでしょう。
この句の最大の魅力は、過去の「そのこと」を、まるで「きのうの」ことのように鮮明に思い出させてくれる鍵として、「夏みかん」を見つけ出した点にあります。
また、「夏」という漢字以外はすべてひらがなで書かれているため、視覚的にも季節感がくっきりと際立っています。
ひらがなの持つ柔らかい印象のおかげで、夏の暑さや厳しさといったマイナスなイメージではなく、明るく爽やかな空気が伝わってきます。
読み手の数だけそれぞれのドラマが生まれ、ふと夏みかんが恋しくなったり、無性に食べたくなったりする。
そんな不思議な、人を惹きつける力を持った一句です。
👤鳥居真里子
水中の河馬が燃えます牡丹雪
坪内稔典
大の河馬さん好きの稔典さん。
河馬さんの句は驚くほど多い。
なにしろ全国の動物園の河馬さんたちに日夜逢いにゆくほどなのだから。
なかでも私はこの句が大好きだ。
「河馬が燃えます」なんて凄い迫力。
最高に河馬への愛情を感じてしまう。
水中で暮らしながらも、身体の密度が高くて泳げない河馬さん。
敵から身を守るため、交尾も子育てもすべて水中で行うそうだ。
そんな実直な河馬さんが水中で燃えるのだから、素敵だ。水中へととめどなく降りつづく牡丹雪。
真っ白く大振りな雪がこの句のなかでは、いつしか真っ赤な花のように思えてくる不思議。
河馬さんを包み込む炎と牡丹雪が水中のなかで絡み合う。
河馬さんがこんなに美しく切なく詠まれている句を他に知らない。
たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ
多分だが磯巾着は義理堅い
坪内稔典
3句ともに私の愛唱句である。