ポノポノ奮闘記Vol. 3
――言葉のはじまり――
👤ナカムラ薫
ロコの年越しに欠かせないのは、爆竹と花火である。
ワイキキはもちろん、その夜はふだん静かな谷がとてつもなく盛り上がる。
ワンブロック下の家では、ここぞとばかりに花火を打ち上げ、夜空を凄まじくカラフルにする。
どう考えても違法花火だが、今宵は無礼講。ポリスも現れない。住人は元消防士だから、消火はお手のものだろう。
元旦になると、ショッピングセンターに福袋が並び、太鼓とドラの華やかな響きに導かれどこかキュートなライオン(獅子)親子たちが練り歩く。
ライオンダンスを見届け、お年玉を差し出すと、ライオンはそれをパコンパコンと食べ邪気を呑み込んでくれる。

そして、二日。
何事もなかったかのように全ては平常へ戻る。
祝祭の余韻はさっと引き、谷はふたたび昔むかしの姿を取り戻す。
天と土と木とが睦まじく寄り添い、たゆたう。
特別な手入れもしないのに、果物はにぎやかに実を結ぶ。
たわわに実る小さなアップルバナナ、秋をくぐり抜け冬というのに、いまだ風と戯れるマンゴー。
少し高みにある柿の実は、どうやらメジロの好物らしい。
こうして年は、繰り返し繰り返し静かにこの谷に根を下ろしてゆく。

さて、今週の訪問先は、オバマ前大統領の母校、Punahou School。
幼稚園から高校までの一貫校で、自由な校風と高い理念を誇る。
そのアフタースクール日本語クラスのなお子先生とご縁をいただき、三日間(月水金)の英語俳句レクチャーを行うことになった。
この学校では、私がクラスを引っ張り、先生方は補佐にまわる。
2年生から6年生まで、40名の子どもたちを二つのクラスに分けた。
Day 1
ブレインストーミングと実作
まず、日本語のご挨拶から始まり、授業は英語で日本語の説明をする。
少しでも私語があると、「はい、そこ、席替え!」と毅然とした先生の声が飛ぶ。
そして、私にバトンが渡った。
「俳句知ってる?」と尋ねると、「詩」、「5・7・5音節」と子どもたち。
「そう、世界で一番短い詩。日本語の俳句は5・7・5の音なの。
英語の場合は、言語が違うから音節で数えると長くなっちゃう。
10単語くらいがちょうどいいよ」。
「一息で読めるくらい──呼吸のリズムね」と、付け加える。
俳句の作り方の動画を見せる。
自然や喜びだけでなく、災害や悲しみも詠めることを学ぶ。
痛みや恐れも「俳句」にしていい、と知るのは子どもたちにとって新鮮であった。
グループで、「音」から連想する言葉をテーブル中央に貼り付けたポストイットに書き出す。
思いのほか積極的にテーブルメイト同士が刺激し合い、次々と言葉が生まれる。
なお子先生、きく子先生、けい子先生のサポートは、穏やかで目配りが行き届いていて、
たくさんの言葉とたくさんの句が並び、教室が小さな詩の森になった。

Day 2
俳句の発表と俳画
子どもたちはお互いの句に笑ったり、首を傾げながら聞いている。
ある子が発表を終えたとき、「そんなふうに感じるなんておかしいよ」という声が上がった。
そこで私は、「けなしたり否定したりしないこと。正しい・間違っているという答えはないんだよ。
いろいろな感じ方や表現を楽しむのが俳句だよ」と伝えた。
すると、子どもたちは、次々に手をあげて楽しそうに感想を言い始めた。
「答えはない」と知り、解放されたのだと思う。

いつも水曜日はダンスレッスンのため欠席する兄妹が、「俳句が楽しいから今日も行きたい!」と母親に頼んで来てくれた。
教室の空気が温まったような気がした。
私は全員の俳句を持ち帰り、コメントを書くことにした。
仕事は増えるけれど……まあ、いいか。
困った句が二つあった。
ひとつは「I murdered a fish」で始まる句。
もうひとつは、ゲームキャラクターを心理分析し、「サイコパス」、「破壊者」といった言葉が並ぶ句。
さて、私は彼らとどのように話そうかなぁ。
Day 3
俳句と俳画の仕上げ
先生に二人のことをそっと聞いてみたら、
「Murderの子は静かめで自分の世界を大切にするタイプ。ゲームの子は、物ごとを丁寧に積み重ねていく子」と教えてくださった。

まずは“murder“の子に声をかけてみる。
「ねえねえ、これっていつのお話?」
「五歳のとき」
「場所はどこ? どうしてI murderedなの?」
ぽつりぽつりと返してくると思っていたら、
「水槽の小さな魚を落としちゃった。跳ねていって、探しても見つからなかったんだよ。床も魚も黄色で。。。。。」
―――あれれ、たくさん喋る。
二年前の驚きと後悔を、いま、言葉にしている!
「わぁー、ショック!悲しかったね。。。それは<murder>ではないと思うよ。」と共感しながら<murder>という言葉のベクトル、温度や色などを話しあった。
次はゲームの子へ。
「キャラ分析、すごいね!でもさ、、、ゲームの世界の俳句に君が見えなくて。。。探しちゃったよ。君はどこにいるの?」と尋ねると、彼はこくりと頷いて、たちまち新しい俳句を書き始めた。
そして、ずっと何もしないで黙っていた子がいて気にしていたのだが、この日突然ペンを取った。
先生に尋ねたら、「とても賢い子。感情をあまり見せないクールビューティです」と。
すごいなあ、ずっと心の中にまだ形にならない言葉があったんだね。
――─言葉のはじまりだね。
レクチャーは今日で終わるけれど、「家で続きを描きたい」という声が、あちこちから上がった。
彼らの作品は、あとで先生方がとりまとめてくださることになった。
先生方の熱意に感謝!
プナホウの子どもたちと過ごして、あらためてハワイというお互いの文化をリスペクトする多民族のるつぼを思う。
この島に根を下ろしながら、Vacationを祖父母がいる本土へ、あるいは親戚の暮らすヨーロッパ、アジアで過ごす子どもたち。
彼らの日常は、いくつもの文化と季節の層でできている。
昨日は雪の中、今日はハワイの陽射しの中──。
そんな世界を生きる子どもたちの感性は、日本を中心に編まれた歳時記には収まりきらない。
彼らには、俳句発祥の地、日本で言うところの「海外詠」という分類は、意味をなさないのだ。
地球まるごとが、彼らのホームなのだから。
