硝子の愉悦・木の愉悦
👤有本仁政

2か月経ったがスマートフォンを買換えておらず、カメラが壊れたままである。
ピントが合わないが、それ以外のことは出来る。
建築や美術が好きな私の、ピンぼけ散歩3回目にお付き合い願いたい。
<硝子の愉悦>
私の住む町から電車で1時間半もかかるが、あの世界的大企業の名を冠した市がある。
高台の城址に市立美術館がある。
オープンから30年経つが、モダニズムの王道を行く建物は美しく保たれている。
私は訪れる度に、日本で一番美しい美術館だとしみじみ思う。
近代建築の重要な素材は、鉄・コンクリート・ガラスの3つで、かつ美しいプロポーションが求められる。
この美術館は乳白色のガラスと緑色の石の外壁が美しく、ピンぼけ写真でもその端正さは伝わると思う。
まさしく永遠のモダン。
この美術館の最大の特長は、迷うことが無い動線にある。
押しつけがましいのではなく、あくまでも自然に歩かされる。
展示空間もボリュームやフォルムや光の変奏があり、巡ることが喜びとなる。
それでいて展示作品の邪魔をしない器ともなっている。
こう書くと自由にプランニングされているようだが、グリッドによるおそろしいまでの秩序が隅々まで貫かれ、かつ破綻がない。
俳句形式は不自由ではあるが、その窮屈さを越えたところに美があると、この美術館から勇気づけられる。
句ができるプロセスの苦労を感じさせない端正な句は魅力的だ。
冬の日のゆがみなく硝子の愉悦
仁政

<木の愉悦>
昨年、美術館の隣に違う設計者による博物館ができた。
博物館の配置を見ると、美術館に敬意を払い建物の巾や高さをそろえている。
一方、美術館がガラスと石の外観であるのに対し、博物館は木材とコンクリートを多用している。
内部も木材をふんだんに使い、形も有機的である。美術館と同じ割付のガラス窓だが、それを支える構造は木製で、SDGsの時代を感じさせる。
木を使う意義が優先されるので部材が大きくなり、プロポーションが悪い部分もでてくる。
完璧には制御できないからこその自然である。
ピンぼけ写真だと、より自然物に近く感じられるかもしれない。
ランドスケープ(造園計画)は引き続き同じ設計者が担当し一体感が生まれている。
美術館から違和感なく外構はつながっているが、端まで来ると博物館のデザインを意識した庭に変化している。
まるで連句のように付かず離れず、ひとつの物語となるために。
30年を隔てた異なる時代の要望、異なるデザイナーの個性、経済性などの問題をクリアして、理想的な解がここにはある。
冬の日のながれるやうに木の愉悦
仁政
美術館のHP
https://www.museum.toyota.aichi.jp/
博物館のHP
https://hakubutsukan.city.toyota.aichi.jp/
有本仁政
1962年兵庫県生まれ、愛知県在住
「韻」同人、中部日本俳句作家会会員
「ひとつばたご」発行人
東海地区現代俳句協会蒼年部長