ギアを上げる
👤木村聡雄

われわれのまわりで自転車を見かけるが、そのほとんどが通勤通学・買い物用や子どもを乗せるいわゆる「ママチャリ」(シティ車、軽快車)の類いである。
一方、この句の作者の国イギリスでは、自転車というとロードバイクやマウンテンバイクなどスピードを上げて遠乗りするようなスポーティーなものばかりで、ママチャリは見かけない。
歩道では通行禁止のうえ、町なかでは大きな駐輪場もほとんどない。
というわけで、サイクリストは必ずヘルメットをかぶり、たいていウルトラマンのように(?)ぴったりとしたサイクリングウェアが基本である。
こうした状況が分かれば、この作品の意図も一層くっきりと浮かび上がってくる。
この自転車乗りも、仲間と合流して郊外の方へサイクリングに出かけるのだろう。
気分はイギリス版ツール・ド・フランスといったところか。
「ギアを下げ」たのはもちろんはじめは低速で走り始めるからである。
わざわざこう書いたことで、これとは逆に、これからスピードを上げてどんどんギアを切り替えて行く様子が示唆される。
書き出しの一行がサイクリング仲間のリーダーのように一句を先導して行く。
作品中ではまだ走り出してもいないのに、読者には、門から出たサイクリストがすぐにギアを上げ、スピードに乗って走り去って行く姿がはっきりと見えるのである。
(俳句和訳:木村聡雄 Blithe Spirit, 2020, 30:3)
[Shifting Up the Gear Toshio Kimura]