特集
「昭和百年/戦後八十年 今 現代俳句とは何か」

2025年 年間回顧

西暦2025年、令和7年に当たる今年。昭和が始まって百年、わが国の無条件降伏で第二次世界大戦が終結して80年という大きな節目でした。
「現代俳句」編集部では一年を回顧し、来年以降の飛躍の糧とするため、会員を代表する立場にある方々の意見・感想を集約する特集を企画しました。
質問内容は、今年の1.印象に残った三句 2.印象に残った一冊・一文 3.自身の一句 4.コメント(百字以内)の四点です。
以下、回答全文を到着順に掲載します(回答者の所属等は一つに限らせていただきました)。

👤マブソン青眼|「海原」

1.印象に残った今年の三句

おっぱいの大きな土偶梅雨きのこ
              石川義倫
  第62回現代俳句協会全国大会・マブソン特選
黒牛の黒い反芻熱波来る
         『鄙の色』鈴木牛後
振り返る翡翠の半分が雨
      『グッドタイム』楠本奇蹄

2.印象に残った一冊・一文

句集『グッドタイム』 楠本奇蹄

3.自身の一句

雪ひとひら死ねばひとひら生まる
         『ドリームタイム』

4.コメント

一句目、選者として出会った句で兜太流なり。
大地(産土)に根を張ったような、骨太の俳風。
二句目も眼前の生き物の視点になれるという「アニミズム俳句」の秀句。
三句目は今年の句集にも選んだ楠本奇蹄氏の繊細さ。


👤久保純夫|現代俳句協会副会長

1.印象に残った今年の三句

針のごとくひかりあふうを神の留守
    『ひかりあふうを』金山桜子
秋深き出雲に家庭裁判所
        『梨の木』福本弘
アロハシャツ不実な腕が生えてくる
      『人魚のころ』なつはづき

2.印象に残った一冊・一文

句集『ひかりあふうを』 金山桜子


👤対馬康子|現代俳句協会副会長

1.印象に残った今年の三句

捕虫網走つても走つても此岸
     「現代俳句」5月 百瀬一兎
滝に滝編まれをりいま思惟の背も
     「現代俳句」5月 島田道峻
動詞はさざんかのしろと散り急ぐ
        「麦」9月 尾内以太

2.印象に残った一冊・一文

「実は俳人とは、世界や人間を、その時代の最新の知性で捉えたいと願う人たちである。十九世紀の俳家に、その知性を保証したのが国学であった。」 秋尾敏『子規に至る』の「あとがき」中の一文

3.自身の一句

その声の穴から覗く鶏頭国
     「WEP俳句通信147号」

4.コメント

三句はいずれも現実を越境し、清新と情念の衝突、動作に刻まれる果てなさ、自然と思想の骨格的交差を描いている。
自句は、言葉の裂け目を異界の入口とし、世界を開く詩的跳躍を示す。


👤野﨑憲子|「海程香川」

1.印象に残った今年の三句

手負いの熊映りし水没林の夏
      「海原」9月 堀之内長一
空海の発心時鳥一声
    「現代俳句」7月 夏井いつき
戦あり星流れても流れても
     「海原」12月 月野ぽぽな

2.印象に残った一冊・一文

句集『百人』 対馬康子

3.自身の一句

軍事郵便に俳句びつしり月今宵
            「海原」4月

4.コメント

昨秋、山梨県立文学館で開催の「金子兜太展」で師が軍事郵便に記した俳句を見た。
そして生きとし生けるもののいのちの根源を見つめ、そこから生まれる俳句こそが混迷の人類を救う鍵となるという思いを一層強くした。


👤福本弘明|現代俳句協会副会長

1.印象に残った今年の三句

天体は柩のごとし花吹雪く
          『荊棘』中村和弘
かたちないものもくずれるないの春
         『水月伝』大井恒行
太古より歩いて来たと茄子の馬
        『無限白書』山本敏倖

2.印象に残った一冊・一文

『子規に至る 十九世紀俳句史再考』 秋尾敏

3.自身の一句

八月やあっけらかんと海に浮く

4.コメント

私自身だけではなく、日本は総じて危機感が薄い。
まさに平和ボケだと思う。
あわせて、世の中の流れの速さを意識せざるを得ない。
近年は、大きな時代の変化のただ中にあると感じている。


👤津髙里永子|「小熊座」

1.印象に残った今年の三句

羊水の中で抱いていたのは夕日
    『原罪のような夕日』和田美代
人ごみに人とごみあり年忘
         『鄙の色』鈴木牛後
建て増しの風呂から見えて夏の山
        『松の位置』坂本登

2.印象に残った一冊・一文

『子規に至る 十九世紀俳句史再考』 秋尾敏

3.自身の一句

初桜ひとりになれば晴れてきて
   千葉県俳句作家協会の吟行句会作

4.コメント

句集をいただくと、お礼を書くまでにはなかなか至らなくても、必ず、心にずんと来た句は書きとめています。
ですが、この三句はそのノートを見直さなくても、すらっと思い出せた句です。
そういう感じの三句です。


👤太田うさぎ|「街」

1.印象に残った今年の三句

虚子の忌と僕に教へてみな老ける
          『或』大塚凱
金魚語が解るのよって君の裸体
       『人魚の頃』なつはづき
書き上げて立たすマッキー昭和の日
      「鏡」51号 長嶋有

2.印象に残った一冊・一文

『澤好摩俳句集成』 山田耕司編

3.自身の一句

芽柳や月経なども懐かしく
           「街」174号

4.コメント

『澤好摩俳句集成』(ふらんす堂)は、生前の句集及び未収録の俳句作品をまとめた労作。
個々の句集が入手困難な俳人だけに、そのはじまりから終焉までを一冊の書で俯瞰できる意義は大きい。


👤大崎紀夫|「破れ傘」

1.印象に残った今年の三句

上ばかり見てゐて春と思ひけり
 『WEP俳句通信145号』松岡隆子
うんこうんこ蟻のうんこの音がした
 『WEP俳句通信146号』坪内稔典
一月のままの二月の家に居る
       「棒」27号 青山丈

2.印象に残った一冊・一文

句集『遠近紀行』 林桂

3.自身の一句

パン屑の向うに蟻が二匹ゐる
         「破れ傘」145号

4.コメント

「WEP俳句通信」連載の柳生正名「子規と佛 子規の佛」、西池冬扇の「正岡子規『俳諧大要』私抄」に注目。
両エッセー共に子規作品に新しい視線を当てる野心的(過激)なもの。


👤松田ひろむ|「鴎座」

1.印象に残った今年の三句

八月六日八時を過ぎし自動ドア
      「俳句」4月 池田澄子
みちのくは異形尊し芋頭
     「小熊座」3月 高野ムツオ
嘗て恐竜嘗て人類冴返る
      「俳壇」4月 行方克巳

2.印象に残った一冊・一文

句集『給食のをばさん』 北大路翼

3.自身の一句

蛇の衣神の約束いくつある
            「鷗座」7月

4.コメント

NHKのテレビ小説「あんぱん」で語られた「たっすいががいかん」。
確かに相変わらず「たっすい」俳句が多い。
俳句のしたたかさが問われる現代、秀句という問題意識で「たっすい」ものでない俳句をあげた。


特集
「昭和百年/戦後八十年 今 現代俳句とは何か」

2025年 年間回顧
── ✒️編集部 ──

✒️遠藤寛子|編集部

1.印象に残った今年の三句

冷奴芯を外してしまいけり
   「現俳ウエブ」11月 久保純夫
受付を通らず白い秋が来た
    「現代俳句」11月 永井潮

ぶよぶよの紙ストローで吸う晩夏
    「現代俳句」11月 なつはづき

2.印象に残った一冊・一文

海外俳句の鑑賞「マクドナルドに月」  
「現俳ウエブ」6月 木村聡雄

3.自身の一句

柑橘の何某春の土に落つ
  『ロマネコンティ』273(6月)号

4.コメント

句会に参加する。渾身の句は見向きもされない。
その一方で自信の無い句を気に入ってもらったりする。
毎回、狐に騙されたようなフワフワした感覚で帰路に着く。
その感覚が癖になっている。


✒️杉美春|編集部

1.印象に残った今年の三句

枯芝やバンクシーなら声を描く
      『人魚のころ』なつはづき
子の姿透けをる孕み鹿の腹
「現代俳句」5月「象の耳」宇都宮駿介
八月の無音の車背後より
   角川「俳句」10月 中村和弘

2.印象に残った一冊・一文

「平和維持のために、俳句が大きなことをできるとは思わない。だが、この小さな器が、小さい故にできることがあるかもしれない」
『還って来なかった兵たちの絶唱』栗林浩

3.自身の一句

白南風や鉛筆で引く水平線
        「俳句四季」10月号

4.コメント

自句は「風の音」をテーマに連作した30句のうちの一つです。
今年は戦後80年をテーマにした作品や評論が多かったと思いますが、その中でも栗林浩さんの『還って来なかった兵たちの絶唱』が心に残りました。


✒️西本明未|編集部

1.印象に残った今年の三句

正しさの融点を知るチョコレート
      「現代俳句」2月 土井探花
人にのみ祈る力よ 日よ 月よ
      「現代俳句」9月 大井恒行
どこまでもふくら雀の敷地なり
     「現代俳句」11月 前田弘

2.印象に残った一冊・一文

 句集『十七会』長井寛

3.自身の一句

柩窓覗けばそこにある銀河

4.コメント

一句目、混沌としたこの世を感覚的なモチーフで見つめて印象的。
二句目、荘厳で静謐。深い人間愛は宇宙 的な広がりを持つ。
三句目、慈愛に満ちた作品。
世界中のどの子にとっても自由に過ごせる「敷地」を願う。


✒️柳生正名|編集部

1.印象に残った今年の三句

ついていた「た」のはるかなり螢よ 
      「海原」11月 鱸久子
やりきつて傾いてゐる神輿かな
「現代俳句」5月新人賞特集 島田道峻
花びらを飲み込む鯉に亀が寄る
         「山猫座」大木あまり

2.印象に残った一冊・一文

「『現代』俳句から『現代俳句』へ」
「現俳ウエブ」4月 林桂

3.自身の一句

故に我在りジーパンといふ穴の中
         「俳句四季」12月

4.コメント

現俳協で「現代俳句」を語り合う際、常にどこかに何かが引っ掛かっている感触があった。
今もある。
それが何か、気付かせてくれたのが林桂氏の論考。
そこから照射される光が見えていなかったものを可視化する。


✒️長井寛|編集部

1.印象に残った今年の三句

谷に雪己を量りつつ沈む
    「現代俳句」2月 対馬康子
直線は雪の傾斜を呼んでをり
    「現代俳句」2月 星野高士
水鳥におほぞら深く底ひあり
   「現代俳句」12月 正木ゆう子

2.印象に残った一冊・一文

句集『水月伝』大井恒行

3.自身の一句

踊りの輪かげなきひとのかげをふむ

4.コメント

2025年は昭和百年に相当、新年は新しい時代の始まりでもある。
海外からは本家の現代俳句協会の動向が注視され、新時代に相応しい俳句の道が問われている。
斬新な俳句の王道は各俳人の双肩にかかっているといえよう。