2025年度 第80回現代俳句協会賞受賞者
👤大井恒行
山口県山口市生まれ、76歳
◇文芸歴・俳句歴
1971年 同人誌・戦無派集団「獣園」創刊に参加
1975年 坪内稔典編集「現代俳句」(南方社)創刊に参加
1978年 同人誌「未定」創刊に参画
1980年 同人誌「豈」創刊に参加、のち発行人、編集人を経て現在編集顧問
1988年 俳句総合誌「俳句空間」(第6号~弘栄堂書店)編集人を5年間務める
2010年 月刊「俳句界」(文學の森)編集顧問を4年間務める
その他、現代俳句協会新人賞、年度作品賞、評論賞などの選考委員を経て、現在、現代俳句協会評議員。日本現代詩歌文学館評議員
〇句集
『秋(トキ)ノ詩(ウタ)』(私家版)1976年、『風の銀漢』(書肆山田)1985年、『現代俳句文庫49大井恒行句集』(ふらんす堂)1999年、『水月伝』(ふらんす堂)2024年
〇著書
『本屋戦国記』(北宋社)1984年、『俳句 作る楽しむ発表する』(西東社)2004年、『教室でみんなと読みたい俳句85』(黎明書房)2011年
受賞句集『水月伝』自選30句
👤大井恒行
東京空襲アフガン廃墟ニューヨーク
なぐりなぐる自爆者イエス眠れる大地
神風に「逢ったら泣くでしょ、兄さんも」
洗われし軍服はみな征きたがる
―Y.Kazukiに捧げるー四句
仰ぎしは雨、牛、わだち、黒い日の丸
凍てぬため足ふみ足ふむ朕の軍隊
零下三十五度死者の両足雪の華
「自分では死ねんのよのぉ」真昼の凍河(エニセイ)
無言館にて 二句
あと五分絵を描くための 樹よ 風よ
召されしに白木の箱の紙切れひとつ
世界中の遺骨にありしきのこ雲
原発忌即地球忌や地震の闇
落葉「スベテアリエタコトナノカ」
原子力発電所すめろぎも穀雨中
覚悟なき死のおびただし核の冬
除染また移染にしかず冬の旅
かたちないものもくずれるないの春
冬青空ウイズコロナウイズ核
戦争に注意 白線の内側へ
鳥かひかりか昼の木に移りたる
はなさくまえの/はなぐせをとう/さくらのき
雨を掬いて水になりきる手のひらよ
手を入れて水のかたさを隠したる
駅から駅へていねいに森を育てる
悼 澤好摩(二〇二三年七月七日・享年七九)
極彩のみちのくあれば幸せしあわせ
倒れしのち、「しあわせ、しあわせ」とつぶやく。
人にのみ祈る力よ 日よ 月よ
狐のかんざし素人戦(しろうといくさ)つかまつる
くるぶしを上げて見えざる春を踏む
雪花菜(きらず)なれいささか花を葬(おく)りつつ
この国をめぐる花かな尽きたる山河