第45回現代俳句評論賞 受賞のことば
美術作品をみる態度で

👤元木幸一

 

俳句を始めたのは古希になってからだから5年前のことです。仙台の花野句会という自由律俳句の会と週刊誌『サンデー毎日』への投句でした。加えて「オフィス汐」という仙台の文化サークルで「美術と俳句」という講演シリーズを始めました。美術作品を詠んでいる俳句を取り上げて解釈するという講座でした。それが本賞への契機になりました。

私は長い間、山形大学でデューラーなどの北方ヨーロッパ美術史を研究していましたから、草田男が連作俳句「騎士」で扱ったデューラーの銅版画《騎士と死と悪魔》は馴染みの作品でした。この俳句なら何とか評論することができるのではないかと思いました。そう簡単なことではなかったのですが。

「北方ルネサンス絵画」は細密な描写を特徴としますので、鑑賞する側も隅から隅まで緻密に観察しなければなりません。それが数十年かけて身についた態度でした。そしてこの態度は草田男のお嬢様弓子さんが書いていらっしゃるように、草田男が美術作品をみるときの態度と共通するものでした。してみると、草田男の連作俳句は私にピッタリだったと言えましょう。

もちろん芳賀徹氏の先行研究が叩き台になりました。そして戦時中の草田男と虚子との関係や俳壇状況からより丹念に読み解くことで、芳賀氏とは異なる新しい解釈を提示することができました。それが「ホトトギス」からの決別表明としての連作俳句という解釈だったのです。

幸運なことに、これが俳句評論の処女作でした。

プロフィール

(生年・句歴)
1950年 仙台市に生れる
2020年  『サンデー毎日』佳作入選
2021年 花野句会(自由律俳句)入会

(所属)
花野句会、山形大学名誉教授(西洋美術史)