返却期限、押してあります。
👤岡村知昭

私が家族と暮らしている市には、現在、ふたつの図書館があります。
「平成の大合併」と呼ばれた市町村合併が全国的に進められた時期に、紆余曲折ありながらも、隣町との合併が成立したのです。
市町村合併となりますと、合併する市町村同士で重複する施設に関して、存廃論議が起こるのはどうしても避けられません。
しかし、図書館に関しては、合併相手となった町の町立図書館は、私の市の市立図書館の分館となりました。

図書館がふたつになったのは、本好きの私にとってはうれしい限り。
さっそく訪れました、となるところなのですが、行きたいと思いながらも、なかなかその機会は訪れませんでした。
しかし、ある週末に、隣町近辺をめぐっていた際、分館の近くまで来たので、思い切って飛び込んでみました。
昼前で、晴れ渡っていました。
駐車場に車は少なく、図書館の中も、来館者はちらほら。
児童書コーナーから子どもの声が聞こえてくるぐらい。
その静けさは、分館の居心地のよさとなっているのでした。

気持ちよさを感じながら、本棚から目についた本を取り、パラパラとめくる。
すると、ある本をめくったときに気づいたのでした。
かつての図書館の本では当たり前だった、返却期日の日付のスタンプを押す紙が貼られてるのです。
懐かしい…思わずつぶやいてしまいました。
その本は戻して、また別の本を取って開くと、そこにも日付のスタンプを押す紙が。

今やどこの図書館も、貸出はバーコードで行うのが当たり前となっていて、分館で見つけた、日付スタンプの用紙が貼ってあった本にも、きちんとバーコードシールはありました。
用紙そのものはスタンプも含めて、実際の貸出業務には使われていないのは明らか。
しかし、いったん貼ったものを剥がす手間を惜しんでなのか、結局そのまま。
だけど、そのままなのが、私にうれしさと気持ちよさを、さらに感じさせてくれるのでした。
分館、いいなあ。
すっかり気に入りました。
さっきまでパラパラめくっていた本たちの中から、さあ、どれを借りようかな。
静けさに満ちた市立図書館分館で、私のわくわくは止まらなくなっていました。

図書館にダンプカー着く残暑かな 知昭

岡村知昭(おかむらともあき)
1973年生まれ 滋賀県近江八幡市在住
俳誌「豈」「狼」「蛮」所属
句集に「然るべく」(草原詩社)、共著に「俳コレ」(邑書林)