友情の詩学
👤酢橘とおる
マクドナルドには、ビッグブレックファスト デラックス(以下BBD)という朝限定で注文できる商品がある。
機内販売っぽいプレートの中に、スパイスと塩味ががっつりついたソーセージパティ、マフィン二枚、スクランブルエッグ、ハッシュポテト、それからホットケーキが入っているという、これぞ欧米型の朝食というラインナップを、これでもかという位にファスト化したステレオタイプ上等な一品だ。
バター、ジャム、ケーキ用のシロップ、木製カトラリーが付け合わせでついてくるのも嬉しい。
ここまでくると単なるストレートというよりも、剛速球に近い重身を感じる。
ストレートとは造られる投球なのだ、としみじみ思う。
最近終売した。
BBDを、大学へのレポートとか依頼原稿(これもそう)とか、しんどくて時間がかかるけれど実入りは少ない(それにだいたいは怒られたるために書くという、半ば貧者の美学めいてくる)類の生産行為を徹夜で終えたあと、その高揚感のまま最寄りのマックに駆け足して持ち帰り、うじゃじゃけた思考を砂糖と油分でさらにうじゃじゃけさせて、何かいけないものが飽和していく感覚のなか気絶するように眠るのが楽しみだった。
体に悪いなあと思っていても、やめることができない。
むしろ、ままならない日々から逃げきれず、身体がぼろぼろになっていくときほど、体に悪いものを摂取することがやめられない。
軽んじられ、やつれていく(ように感じ取られている)自らの身体と思考を「わたし」そのものではなく「わたしのからだ」あるいは「わたしの言葉」としてみなし、その所有者としての自らを起立させながら、そんなものが欲しいのならばくれてやる、という風に毒を摂取し、そのことで気絶し、自己の裁量権や所有権を一時的に放棄するという、半ば自傷的な休眠のなかで、かろうじて主体性を維持するというような感覚。
ヘーゲルさん、ほんとにしんどいっす、けれどエリザベス・スー(映画『サブスタンス』の主人公)、あなたはひとりじゃない。
そんな言葉がふとついて出る。
誰かは、俳句は座の文学だという。
そうすると、俳句は友情の詩形である、と言う事も出来るかもしれない。
ただ、そうした座や友情が、当の「友」の歓待の前に既に出来上がってしまっている、ということがないようにしたい。
ことに、友として友を書き表わし続けるという事は、おそらく命がけのことだ。
その侵食の重たさに耐えきれるものはほとんどいない。
友の吐いた声、文字にした風景や言葉といったものがあって、ようやく、友を書き、友に書きこまれることを許せるようになる。
俳句が友情の文学というのならば、その接触に耐えながら、自らの詩形や言葉、時には季語でさえも変型・変奏せねばならない。
それが出来ているだろうか、誰かに、私に。
そういえば誰かは、雲は友であるという。
むべなるかな、雲は遠くにあるが、その変形・自在さは飽きることがなく、気づけばわが心を席捲している。
私にとって、それは太陽な気がする。
薄暗い冷蔵庫には、いつも赤いトマトが置きたくなる。
海が日をくるんでいく。
核のリスク。
太陽がいっぱいだ。
放物線
酢橘とおる
サングラス放物線の日が友に
カヤックのとほる橋らし雪加聴く
「スコール」とつけて小さき日記となる
straight(まっすぐ)な友・真つ直ぐな日輪草
友情に詩形広げよ青ぶだう
君が書きし赤とんばうがみづのうへ
キッチンへあぶらのごとく秋日入る
ビー玉の止まりたる壁九月尽
酢橘とおる
1996年 沖縄県出身・在住
詩・俳句を中心に創作を続けている
同人詩誌『滸』同人
眩しい場所
👤三瀬未悠
皆さんには応援している球団はありますか?
私は東京ヤクルトスワローズを応援しています。
ヤクルトのキャンプ地である愛媛県松山市にある坊っちゃんスタジアムという球場の近くに住んでいたので、坊っちゃんで試合があるときは小学校でチラシが配られて、無料でヤクルトの試合を観に行くことができました。
小さな頃から家のペン立てには、つば九郎の鉛筆が、傘立てには応援グッズのトリコロールの傘が刺さっていて、当時は野球にはそんなに詳しくなかったけれど、ヤクルトが松山に来たときは応援に行くのが楽しみでした。
私が最近気になっていることは、職場にいる野球ファンの存在です。
私がこの4月から働いている職場には、分かっているだけでも阪神、中日、カープ、ヤクルトとセリーグのファンがひしめき合っています。
ほぼ毎日一緒にお昼を食べている同じ課の方は阪神ファンです。
休憩中は毎日のように野球の話になるけれど、今年の阪神はダントツの1位、今年のヤクルトはぶっちぎりの最下位なので和やかなものです。
これがヤクルトと阪神で優勝を争っている数年前のような状態であれば、こうはいかなかったかも知れません。
持ち物を赤色で統一している筋金入りのカープファンの方もいます。
この方はことあるごとにカープの話をしているので、配属されたばかりの私が一番最初に見つけた野球ファンです。
中日ファンの方はこの最近配属されたばかりなのでまだお話をしたことはありませんが、この方も中日グッズを身に着けていて筋金入りの中日ファンであることが見受けられます。
近々声をかけて、お話をしてみたいと思っています。
年間143試合しかないプロ野球で1年に96敗もしてみたり、かと思えば10点差を逆転サヨナラ勝ちしてみたり、夢とロマンが詰まったヤクルトですが、他にも好きなところは沢山あります。
特に応援の楽しさは外せません。
点が入ったときに東京音頭とともにファンみんなが傘を揺らす光景は、生で見るととても美しく、心に残ります。
球場の光を受けたビニールの傘がキラキラと光を反射して、波のように見えます。
自分も傘を降ってその波の一員になる快感は、一度体験すると忘れられません。
キラキラしたものが好きで、これまで沢山俳句に詠んできました。
「ひかり」「ひかる」という言葉も好きで、よく使います。
来年は光の中に沸き立つスワローズを見られますように。
ユニフォーム
三瀬未悠
マーチングバンド光は真っ先に届く
少年の拾って捨てる鳥の羽根
液晶にビールの色の長き夜
足跡が足跡を消す運動会
カットバン剥がせば昼の月匂う
台風の町を子どもが眠り出す
秋の夜へ置くように脱ぐユニフォーム
まだここにいてね秋は眩しいね
三瀬未悠:2000年生まれ 5歳より作句開始
2016年に句集『青の星』、2023年に句集『たてがみ』刊行
第12回百年俳句賞最優秀賞