現代俳句協会賞
──特別賞──

句集『静涵』
👤董振華(とうしんか)

自選15句

無と思うほどの水色初明かり
羽透けるものらの春となりにけり
春眠深し釈迦の掌中かもしれぬ
春眠のわたくし鳥になる途中
十二星座いささか匂う柚子の花
河骨やわれは痩身草食派
空蟬や生きるは死ぬに寄りかかる
空をゆく天馬のように秋思かな
黄河秋聲その漣のその延々
気が付けばいつも末席草の花
おほかみの咆哮ののちいくさ無し
冬夕焼誰も知らない死後の景
ちちははの豊かな寝息大氷柱
大白鳥すべての光うけとめて
憂国われら杜甫に似て杜甫とならず

【受賞のことば】

この度、拙句集『静涵』が現代俳句協会賞特別賞を受賞し光栄です。
昨年度協会賞受賞者マブソン青眼氏の「外国人が日本語で俳句なんか作れないと未だに思っている人がいるみたい。
この受賞のお陰で少し世の中の理解が進めばいい」との言葉に深く共感した。
広い視野でご選考くださった選考委員の皆様に感謝すると共に、今後も協会賞の理念に相応しい句作に励み、同時に俳句の国際化に寄与できるよう一層研鑽を積んでまいります。

【プロフィール】

董振華:1972年中国生れ、東京農大農業経済学博士
1996年慶応大学留学中金子兜太に師事
「海程」同人を経て「海原」同人
「聊楽句会」代表
句集『聊楽』『静涵』等
編著書『語りたい兜太 伝えたい兜太』『語りたい龍太 伝えたい龍太』『語りたい俳人―師を語る友を語る』等

 


句集『雨畑硯』
👤武藤紀子

自選15句

雪だるまほのかに杉の匂ひして
魚はみな素顔で泳ぐチェホフ忌
男来て冬日を青と言ひにけり
雪融けの音聞こえくる絵を飾る
花谷先生奥へ奥へと蛇を見に
アズナブール聴いて古巣の見える窓
春の雨舌一枚をしまひけり
魚目逝く木賊の青を忘れめや
八雲忌や山陰線の通る音
先生の庭のまむしはもう出たか
會津の墓會津の人が掃く落葉
ときをりは鳥の影さす円座かな
秋声を聴くや雨畑硯より
ブルースの色して鵜川流れゆく
竹やぶの中に鳥ゐる二月かな

【受賞のことば】

この度は特別賞を頂くことになり、ありがたくうれしく驚いています。
76歳になり最後の句集を出版すると決心しました。
いつも沢山の句集を頂くのですが、200も300もの句を読むのが大変でした。
自分は百句にしようと思いました。
そのかわりに短文をつけて『宇佐美魚目の百句』と同じ形にしようと決めました。
最後の句集で自分の思う通りの形にしてこのような賞までいただけたのですからもう思い残すことは何もありません。

【プロフィール】

武藤紀子:昭和24年金沢市生まれ
昭和63年宇佐美魚目に師事 「晨」同人
平成5年長谷川櫂に兄事 「古志」同人
平成23年「円座」創刊
句集『円座』『朱夏』『百千鳥』『冬千鳥』『雨畑硯』
日本文藝家協会会員
現俳協東海地区副会長

石を積む月の光となりにけり