伝承館

山戸則江

 3月初旬、福島県双葉町にある震災伝承施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪ねる機会を得た。福島第1原発から北へ約4キロの双葉町は、東日本大震災と原子力災害という複合災害に見舞われ、多くの住民が避難生活を余儀なくされた地域だ。「伝承館」は双葉町の一部の避難指示が2020年3月に解除されたのち、同年9月に開館したという。

 「伝承館」は、背後に阿武隈山地をのぞむ地上三階建ての、木をふんだんに用いた建物だ。広く明るい、開放的なエントランスホールに迎えられると、博物館か美術館を訪れたような気持ちになる。しかし、円形の導入シアターで目にするのは、地震と津波、原発事故の発生時の映像。福島出身の故・西田敏行氏の郷愁を誘うナレーションで、住民避難の様子や復興へ向けた取り組みなども紹介されていた。

 円形シアターを取り囲む印象的なスロープを昇ると、時系列で展示は進んでいく。地震発生、原発事故、事故直後の危機対応、長期化する原子力事故の影響と進んでいく、その始まりが「福島第一原発の工事に着手した1967年」であることに、胸を突かれる思いがした。

 「県民の思い」と題した展示では、被災した多くの方々のことばを直接聞く、目にすることになる。突然の別れ、長期化する避難、帰れないふるさと、失われた普通の日々。展示として直視するにはあまりにつらいこれらは、今日、明日、いつかわからない「その日」に、私自身にも起こりうることだ。そうだ、これは現実なのだ。

 被害は未だ現在進行形である。災害への意識を常に持ち続けて暮らすことは、容易ではない。「伝承館」が私たちに伝えてくれたことの意義を、建物の三階にあるテラスからおだやかな海をのぞみながら、改めて考えさせられた。

 「東日本大震災・原子力災害伝承館」ウェブサイト:https://www.fipo.or.jp/lore/about