シダの不思議な魅力
五島高資
シダ植物(以下シダ)と聞くと花も実もない陰気な感じを受ける人も多いかもしれない。もっとも、最近では、アジアンタムなど観葉植物として日常生活に取り入れられることも見かけるようにはなったけれども。
一方、同じ隠花植物でもコケ植物(以下コケ)は、その可憐な形態や美しい生息環境も相まって自然派志向の人々に好まれている。たとえば、西芳寺(苔寺)などの苔庭はまさに古くから有名な観光スポットだが、最近では、奥入瀬渓流(青森県)、白谷雲水峡(屋久島)をはじめ、白駒の池(長野県)を加えて「モス(苔)ツーリズムの三大聖地」と称されて人気を博しているという。また、栽培が比較的簡単でコンパクトに収まるコケは、都会暮らしの人々にとって癒やしをもたらす身近なインテリアとしてもその応用が広がっているようだ。
ともあれ、私がコケよりもシダに興味を惹かれるのは、幼い頃、長崎県五島列島に住んでいたことによる。小学生の頃に見た福江島の地図に国指定天然記念物「へご自生北限帯」と記載されていたのである。ヘゴとは、高さ数メートルにもなる熱帯性・常緑木生シダのことであり、まさに恐竜が出てきそうな林相を呈するが、その時分はまだヘゴを見たことがなかった。

ヘゴ
十数年前、父と二人でそのヘゴを探しに出かけたことがあった。島のあちこちを探したが、なかなか見つからなかったのだが、やっとの思いで分け入った山中に高さ3メートルほどのヘゴをついに見つけたときは天にも昇る心地がした。茶色い幹の上に緑に生い茂ったヘゴの葉が太陽の光を浴びて神々しかったのを憶えている。そこが玉之浦という地名だったことも印象深かった。ちなみに、近くの小川に高さ2メートルほどのリュウビンタイ(龍鬢帯・観音座蓮)も見つけた。龍の鱗のような根茎から伸びた長い葉柄の先には綺麗な緑鮮やかな葉が茂っていた。
その数年後に父は死んだが、あの時のヘゴの写真を見るたびに父をはじめ島で生き抜いてきた祖先、そしてその営みを支えてきた太古から連綿と続く自然の偉大さに私は畏敬の念を禁じ得ない。
古くは、関ヶ原の戦いや大坂夏の陣の際に徳川家康が用いた伊予札黒糸威胴丸具足・大黒頭巾形兜の前立がシダを模しており、別名・歯朶具足とも呼ばれる。シダに吉相を洞見した一例であろう。

孔雀シダ
最近では、奈良県吉野町の金峯山寺から脳天大神・龍王院へ下る階段の脇に、美しい孔雀シダを見つけた。葉柄が渦巻きながら羽状複葉を成す形態はまさに孔雀の尾羽のように美しい。これは日本各地で見ることができるようだから、ちょっと気にかけてみてはいかがだろうか。
おにへごとすれ違ふ生御霊かな 五島高資
(おにへご : 五島ではヘゴのことを方言で「おにへご」と呼ぶ)