月虹

五島高資

 たいていお正月とお盆は、故郷である五島列島に帰っている。

 その福江島には母と弟夫婦が住んでいるのだが、今年の年始に帰省した際、ふだんは無口な弟が夜に虹を見たよと、ボソッと話しかけてきた。まさか太陽の出ていない時分に虹が見えることなどないと半信半疑だったが、「ほら、これ」と言って弟が差し出したスマホの画面には、たしかに夜明け前の東の空に虹らしきものが映っていた。

 最近、弟は趣味で家から近い富江港の埠頭へ烏賊釣りに行っている。だいたい午前3時過ぎくらいに出かけて、日の出前には帰宅するのだが、たまたま去年の12月中旬のある日、家に帰ろうとしていた際に東の空を眺めると虹が見えたのだと言う。

 最初は私も驚いたが、ちょうど同じ頃の早朝、私は通勤の途中(栃木県下野市)、西の空に白く残った満月があまりにも綺麗だったのでスマホで撮ったのを思い出した。しかも、〈月残る高圧線や冬の空〉と詠んでフェイスブックに写真と共にアップしていたのである。

 これで弟が見た虹の原因が判明した。つまり、富江湾の和島と多郎島に架かった虹は、有明の月が光源となって生じた「月虹」という現象だったのである。おそらく弟は虹に目をとられて背後の西の空に残った月に気づかなかったのである。

 話は溯るが、去年のお盆に帰省した際、やはり福江島の大瀬崎から「反薄明光(裏御光)」という現象を見かけた。それは、ちょうど大瀬崎から東の方角にある大宝(空海が唐から帰朝する際に上陸した地で、密教による護摩法要が日本で初めて修された西高野山大寶寺のある場所)の上空から放射状に茜色の光の筋が幾重にも広がって荘厳であった。

 「月虹」や「反薄明光」も珍しい現象ではある。しかし、これまで見過ごされていた現象が、今はスマホさえあればすぐに撮影できるようになったがために、それらが再認識される機会が増えただけなのかもしれない。

 皆さんも時にはのんびりと空を眺めてみるのも良いかもしれない。まだまだ不思議な現象を捉えることが出来るかもしれないのだから。

 

はらからの島を月虹結びけり 高資