『現代俳句年鑑2025』紹介  

年鑑部長 田口 武

 『現代俳句年鑑2025』は、296頁で昨年十一月に刊行されました。会員の約四割の方に参加をいただきましたが、約六割の方のお手元には『現代俳句年鑑2025』がないといえますので、ここで紹介させていただきます。

『現代俳句年鑑2025』には、第60回現代俳句大会の報告や「現代俳句協会の顕彰作品集」として、第24回現代俳句大賞、第41回兜太現代俳句新人賞、第79回現代俳句協会賞、第44回現代俳句評論賞及び第25回現代俳句協会年度作品賞の受賞作品が掲載され、各受賞作品をまとめて読んでいただくことができ、それぞれの歴代受賞者一覧も掲載されています。また、新刊案内、物故会員追悼、各地区事務局所在地、協会の役員・顧問等名簿も掲載されています。

 「俳誌のプロムナード」では、参加いただいた結社誌や同人誌等60誌の案内と共に主宰や代表の作品並びに会員の作品が紹介されています。

 その中でも特に読み応えがあるのが「諸家近詠」です。一、五六〇名の参加をいただき、七、七九八句が掲載され、有季・無季を問わず定型で作る人、さらには口語書きや自由律で作る人、表記が現代仮名づかいの人、または、歴史的仮名づかいの人まで、さまざまな俳句観の人の作品が展開されています。隙間時間に頁を繰るだけでも俳句生活が豊かになると思います。

 「諸家近詠」に掲載された作品は『現代俳句』の「『現代俳句2025』を読む」に取り上げてもらえることがあります。また、ウエッブ版の『現代俳句』でも冊子の『現代俳句』とは異なる筆者により取り上げてもらえることがあり、このことは参加者の励みにもなっています。

 現在『現代俳句年鑑2026』への参加を募集中です。詳しくはお手元に届いている案内や『現代俳句』の広告をご覧ください。

 多くの会員の皆様の参加をお待ちしています。

 

WEB版『現代俳句年鑑2025』を読む

福本弘明選(現代俳句年鑑2025 p44~p72より)

特選句
初日の出やまとことばに生まれたる 安西  篤

 「やまとことば」に生まれたのは、「初日の出」だと素直に読むこともできるが、上5で切って、生まれたのは作者であると解釈することも可能だ。

 つまり、「やまとことば」とは日本人の情緒そのものであり、日本人の心を表していると思われるからだ。作者も日本人の心を持つ者の一人として生まれ、それは、大変ありがたく幸せなことであって、つい手を合わせたくなるような「初日の出」のようなものである。 掲句、「初日の出」はもちろん、一句すべてがやまとことばで成り立っていることにも注目。

秀句5句

熊が優しい雨粒を振り払う     秋尾  敏

にびいろの野良猫朧ごと拾ふ    和緒 玲子

ビー玉の中の冬日が騒がしい    足立  攝

少年の傷口にある西日かな     あめ・みちお

元日の半島半死夜がくる      井口 時男

 1句目、動物園の熊に優しい雨だと哀愁が漂うが、ここは野生の熊に違いない。ハードボイルドの熊だ。2句目、にびいろと朧、どちらかが欠けていればこの「拾ふ」という決断はなかったかも。3句目、小さなビー玉に確かなエネルギー。外に出ようと誘ってくる。4句目、少年の傷口に西日は切ないが、少年特有の感傷を想起させる。5句目、昨年の元日当日の能登。被災地が半死のまま夜の闇に包まれゆく。身も凍るような恐怖。半死はつまり半生でもある。半島に人体が重なる。

 

田中小径選 (現代俳句年鑑2025 p143~p179より)

特選句
どくだみの花長生きの幸不幸  高井年子

 人類の永遠のテーマ。白い花が可憐などくだみは長寿の一助になると言われている。今も昔も長寿への研究は貪欲に続けられているけれど、果たして長寿が幸せなのだろうかと自問自答している。安全な環境で長寿化した動物達に今まで見られなかった病気が増えているらしい。人間界もしかり。未知の病気にかかり、長々と苦しい老後を過ごすようになるのではないかしら。そんなとりとめのない事を考えながら、どくだみ茶を飲んでいる私。

秀句5句

四方へと子は放たれて花の昼        田島実桐

深爪の日にち薬や冬木の芽         塚田佳都子

パスワード忘れて開かぬ落とし文    百目鬼英明

夕焼のような花束のような約束       中内亮玄

暗く深く酔う原爆の日の夜        中川屺城子

  1句目、小学校3年生の子供達が、校庭に出た途端わあっーと散らばってしまった。生命力溢れる子供達に圧倒された教職の春を思い出します。折しも花の昼。2句目、日にち薬と言う言葉は全国共通かと思いきや、関東ではあまり使わないと知り小さな驚きでした。冬木の芽が膨らむ頃には深爪もよくなっているでしょう。3句目、パスワードには悩まされていますが「落し文」の意外性が秀逸。4句目、このような約束をしたら恋に落ちること間違いなし。5句目、私は被爆2世なのになんのアクションも起こしていません。「暗く深く酔う」が心に染みます。