第22回現代俳句協会年度作品賞は 中村 遥「その色」 星野早苗「櫟の実」に決定しました
当協会では、7月17日(土)協会事務所において第22回現代俳句協会年度作品賞の選考委員会を開催し、応募232編から下記のとおり2編の授賞作品を決定しました。
この賞は、協会会員の日頃の作句活動の中から生まれた優れた作品を顕彰するために制定されたもので、他賞及びコンクールでの入選作を除く、昨年1月から12月の間の既発表または未発表の作品計30句の募集作品を対象とするものです。
第22回現代俳句協会年度作品賞 中村 遥 「その色」30句
第22回現代俳句協会年度作品賞 星野 早苗 「櫟の実」30句
◎受賞者のプロフィールは次のとおりです。
◇中村 遥(なかむら・はるか)(本名:美智子)
1954年(昭和29年)兵庫県生まれ
2000年(平成12年)「斧」入会・吉本伊智朗に師事
斧金斧賞・斧山朴賞・斧山花賞受賞
2015年(平成27年)吉本伊智朗逝去により、はりまだいすけに師事
2019年(令和元年)現代俳句協会入会
第8回朝日俳句新人賞準賞(2005年)
第33回俳壇賞(2019年)
現在「斧」山光集同人、神戸市西区文化センター俳句講座講師
句集『海岳』(2015年、本阿弥書店)
◇星野早苗(ほしの・さなえ)(本名:同じ)
1956年(昭和31年) 京都市生まれ
1996年(平成8年)「船団」入会
2011年(平成23年)第3回船団賞受賞
2014年(平成26年)「藍」入会、現代俳句協会入会
2017年(平成29年)「藍」退会、「南風」(村上鞆彦主宰)入会
2020年(令和2年)「船団」解散、「南風」新人賞受賞、俳人協会入会
現在「南風」同人、現代俳句協会会員、俳人協会会員
句集『空のさえずる』(2000年2月)
◇選考委員(五十音順)
浦川聡子、江中真弓、こしのゆみこ、佐藤映二、原 雅子、山﨑十生
◇表彰式
令和3年10月30日(土)午後1時より開催予定(於・東天紅上野店)の第58会現代俳句全国大会の席上にて表彰式を予定しております。
◇お問い合わせ・現代俳句協会事務局 電話03-3839-8190
第22回現代俳句協会年度作品賞受賞作品
「その色」 中村 遥
蠅生まれたちまち翅は海の色
陽炎を抜けてこの世の馬となる
万能といふ薬塗る朧かな
木仏に残る朱の色地虫出づ
喪ごころにたんぽぽの絮吹きにけり
桜満開漁夫の目に猫の眼に
不思議なる匂ひしてゐる八重桜
黒といふ豊かなる色野を焼いて
月光にぼうたんの白汚れたり
女郎蜘蛛飢ゑてその色鮮やかに
木の花のみな真白なる田植かな
逆光の一木仏めきて朱夏
少年の饐えたる匂ひ桑の実も
白き鳥さらに白めく夜の雷
ゆふだちを賜り絹色のこの世
蛇の衣透けていよいよ神の色
初盆の夜目に尊き樹相かな
白骨の一樹ゆゆしき盆の島
結願の色朴の実のその赤は
かりがねや舟を焼く火の燻りに
鳥籠に密猟の鳥柿に色
人の世に馴染んでゐたる破蓮
豊年の色なり毒の実も空も
人間の声に朽ちたる曼珠沙華
捨案山子真つ赤な紐に括られて
いなづまや色のくすみし人体図
断層のあかあか蛇を眠らせて
古色とは蓮の枯れたる水の色
鷹衰ふ白より白きもの降れば
古暦焚けば人恋ふ色となる
「櫟の実」 星野早苗
紅梅に呼ばれて鹿の群動く
雲遠し飛火野の草青むころ
夜の梅長き梯子の掛けてあり
沈丁花燈の色違ふ家二軒
鳥雲に画鋲の並ぶ掲示板
天網にかかる遊びや百千鳥
方舟に港なかりし春の風邪
二つ三つつけばふくらむ紙風船
花菜風煙突を見て育つ子と
甘茶仏大人のやうな口利きて
乳母車花の雲より降りて来し
足元を雲の流るる早苗かな
壁白き部屋に母置く遠蛙
合歓の花編み糸の玉透けて来し
十薬の香の手にものを畳みけり
幅跳びの記録係も跣足なる
落雷の頬傷著き飛鳥仏
僧坊を包みて萩の雫かな
墳丘は杜となりけり櫟の実
風白し水切りの石探すとき
水澄むや浮島のごと古墳群
爽籟や石室に星宿るらし
鵜をのせて舟のかしげる冬霞
浅草や毛皮の人に日の当たる
トリスバーコートのままに酔ふ処
旅の荷を解けばひとりや冬の雲
蘆の煤燃えながら降る雪の果
なやらひや読経の中を鬼かへる
涅槃図に真白き月のまづ昇る
百獣の涙あたたか春の月