安西 篤(あんざい・あつし)第69回現代俳句協会賞受賞

安西 篤(あんざい・あつし)

◇本名 安齋篤史。
・昭和 7年(1932年)4月14日三重県生まれ(82歳)。
・昭和32年(1957年)職場の先輩、見学玄・船戸竹雄両氏の知遇を得て梅田桑孤氏編集の「胴」同人となる。
・昭和37年(1962年)「海程」入会、金子兜太に師事。
・昭和59年(1984年)より昭和62年(1987年)まで「海程」編集長。
・平成 3年(1991年)海程賞。
・句集に、『多摩蘭坂』『秋情(あきごころ)』『秋の道(タオ)』など。
 著書に『秀句の条件』『金子兜太』、共著に『現代の俳人101』など。
・現在、現代俳句協会副会長、海程会会長。
 

安西 篤 『秋の道(タオ)』 自選五十句

  春霞猫がひきずる寝巻紐
  沈黙の直球が来る桜闇
  火蛾舞うや醜の御楯という言葉
  蟇轢かれやがていつもの土となる
  打ち水やちょっとそこまで逝きし人
  憲法九条座敷に椿象(かめむし)いる気配
  女郎花もう死ぬといいまだ死なぬ
  秋の道(タオ)百をかぞえる間に暮れる
  色即是空紅葉の景をはみ出して
  かもめ来よ餌づけはキスの素早さで
  人日のあたまの下に在るからだ
  犬猫(ポチタマ)の芸めでたしや寿(いのちなが)
  創(はじめ)にことばそしてはじまる初景色
  陽炎や鳥獣戯画の端に人
  語り部にもの忘れあり桜東風
  雌ねじから弛みはじめし春の家
  アリランは梳る唄榛の花
  雨上がる万緑連立方程式
  補聴器のノイズに玉音紛れ込む
  ばらばらにかたまっている老いの秋
  あの世まで煤逃げし人喚ばうなり
  酢海鼠に水漬く屍の味がある
  水やれば草むすかばね匂いけり
  下駄箱がむらむらとあるみどりの日
  玉あじさいガーゼの匂う姉でした
  軽袗(かるさん)のように八十路の旅ごころ
  竹節虫(ななふし)やト書のように父がいる
  草原に反歌の座あり吾亦紅
  酔いざめの水を花鳥とおもいけり
  両神は高みむすびや鳥の恋
  地下鉄に熱風が来る沖縄忌
  原子炉に生ゴミのある雨月かな
  登高やみんな似てくる素老人
  淋しさに大きさのない秋の暮
  人間に蒸発の音山眠る
  春の砂丘男の影が折れている
  頑なに木瘤は朽ちず昭和の日
  万緑やわれら自由な粗大ゴミ
  空き瓶の透明サウンドレノンの忌
  冬薔薇その旋律のまま凍てし
  戦後とは次の戦前多喜二の忌
  パンジーの光あつめて祈るなり
  菜の花やはや水性の風にのる
  感情が液状化する弥生尽
  亀鳴くや地動説身にしみました
  みちのくの夜は二万の海ほたる
  瓦礫より音声菩薩雁渡し
  垂直に人の死の来る寒夕焼
  天狼星(シリウス)や兜太どっこい生きている
  米を磨ぐ男は海を還らざり

 
 
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は掲載時点のものです。