漢俳の現在
董 振華
1980年から2005年までの4半世紀において、漢俳創作及び日本の俳人との交流は非常に素晴らしい時期であった。この間、両国の政治的な原因やそれまでに活躍した漢俳詩人が高齢のため、一時期には下火になることもあった。
2007年4月24日、中国の温家宝首相(当時)が日本を公式訪問した際に、
和風化細雨 和風(そよかぜ)が細雨(さいう)と化す
櫻花吐艶歓朋友 ほころぶ桜花が朋友を暖かく迎え
冬去春来早 冬去れば早(はや)見せん春のきざしを
という漢俳を詠んだことによって、長い間冷え込んでいた日中関係の回暖に美しき願いを託し、「溶氷の旅」と言われた。
また、2010年5月30日、日中友好七団体及び華僑界四団体の歓迎晩餐会で、
溶氷化春水 氷が溶けて春水と化す
雨過青山分外翠 雨が過ぎて青山の翠は格別なり
大地生葳蕤 大地は葳蕤に生い茂る
という漢俳を作り、両国関係の現状と麗しき未来を謳われた。
この二つの出来事により、漢俳ブームが再び復活できた。民衆から政府首脳にまで広がり、両国民の心を繋ぐ真の架橋になった。言うまでもなく、漢俳がここまで発展できたのは取りも直さず漢俳詩人と日本俳人との共同の努力と交流の賜物である。
また、中国では文学の発展も政府からの支持が不可欠である。2021年10月、中国外文局陸彩栄副局長は「新漢俳の発展と新詩境の開拓」を題に《光明日報》で長文を撰し、漢俳の未来と発展について七点の意見を述べた。ここで抜粋・翻訳して記しておく。
一、漢俳の創作研究を強め、社会的な普及を促進する。漢俳の由来と伝承を明確にし、漢俳の研究、創作、評論の隊伍を作り、広汎なる文学愛好者の漢俳に対する認知と興味を高める。
二、漢俳創作の団体を多く作り、創作の積極性を向上させる。漢俳創作の高柔軟性、高自由度、小拘束性(押韻の有無皆可など)の特徴が新時代での発展に有利な条件を作り出した。作品応募や選評授賞活動などを通して社会的な認知度及び文学界における関心と支持を高める。
三、漢俳作品の公開発表に力を入れる。各種の文学詩刊やマスメディアの文学文芸版に漢俳のコラムを作り、漢俳作品の発表を促進する。時機が熟したら漢俳の電子版或いは紙版誌を創刊し、創作と交流の空間を広める。同時に翻訳と対外交流に力を入れる。
四、漢俳組織を作り、時代とともに創作人材を育成する。漢俳の成長と発展は組織の関心及び支持が不可欠である。全国及び地方の作家協会、文聯の詩詞学会、協会などは漢俳の草の根レベルの組織を作り、漢俳創作者間の連携を密にし、漢俳の社会的地位と影響力を高める。
五、漢俳教学の教育及び発展の基礎を固める。小中学校、高校、大学の教科書に優秀な漢俳を選入して教学の内容にする。教を以て学を促し、学を以て教を助けることによって漢俳の創作を発展させる。
六、漢俳の国際間の交流活動を展開し、国際的影響を広める。まず、中日両国の新しい漢俳と俳句の創作と交流の活動を展開し、双方の愛好者間の情熱と連携を強める。次に世界的な漢俳交流活動を展開する。また「漢俳祭」などを作って世界各国の漢俳愛好者を惹きつけ、新たな創作ブームを作り出す。
七、多形式で漢俳を生かし文化の生態をアクティベーションさせる。日本の漫画創作に俳句を導入すると同じように、書道などの分野で漢俳の作品を多く作り、同時に漢俳の国際的書道展などを展開し、応用空間を広める。
そして、近年、インターネットの普及に伴い、日本文化と中国文学を同時に愛好する多くの若者が漢俳の創作に加わり、伝統的な表現手段と異なる方法を用いて、様々のサイトで漢俳作品を披露し、相互交流を行うことで、最も人気あるネット文学の一つとなった。代表例を言えば、日本向けの中国を紹介する専門誌『人民中国』の編集長の王衆一氏が、2016年から『人民中国』の誌面とSNSのWeChat公式アカウントで創意工夫を凝らした「節気と花」「俳人が詠う二十四節気と花」のコラムを設けて、折々の節気に応じて両国の俳人の句を選び、中訳して連載を始めた。同時にオリジナルなイラストや読者投稿の俳句、漢俳、漢詩等の秀作とを合わせて掲載し、読者から大きな反響を呼んだ。王氏は「今年まで5年も続いていたので、愛読者や投稿者が増え続け、安定した愛好者の層が出来上がった」と意気揚々と語り、新時代の漢俳創作にとっていま一つの自己表現のチャンスとプラットフォームを提供した。
なお、2023年1月、中国国際放送局日本語放送パーソナリティーの王小燕氏は新春スペシャル番組で、私が代表を務める「聊楽句会」を中日文化交流の一環として取り上げて紹介して頂いた。番組を聴くサイトは許可を得て下記に付記させていただく。
https://japanese.cri.cn/2023/01/10/ARTIvYdFB45P6gtpdOGjhCcq230110.shtml 年明けスペシャル~聊楽句会
更に、2023年8月、「人民中国」誌の王衆一編集長の要請に応じて、「聊楽句会」の北京のメンバーと「人民中国」誌の編集者が一堂に会し、漢俳・俳句創作と交流の座談会を開いた。同誌の李家祺女史が書かれた記事のサイトも許可を得て下記のように付記させていただく。
http://www.peoplechina.com.cn/zrjl/202310/t20231023_800346787.html
さらに、中国漢俳学会常務理事の段楽三氏は数十年一日のごとく、孜々として漢俳の創作と発展にご尽力された。自分の漢俳集を多く刊行しただけでなく、SNSのWeChatを通して、漢俳の知識や創作方法(押韻も含む)などの普及に奔走し呼び掛けつづけている。とりわけ2014年から毎年「中国漢俳春節聯歓活動」という漢俳を以って春節を賀う活動を開始して以来、10年も経った。毎年の新年詠として、各国の漢俳創作者約400名からそれぞれ2首の作品を募集して、中国及び海外の華人新聞、ネット、雑誌に掲載・紹介し、漢俳の発展を大いに推し進めた。ここに2024年春節詠の一部の作品及び私の日本語訳を記しておく。
神州競領先 神州 競って先に領(た)つ (神州:中国の別称)
和平共処夢団圓 平和に共存して団欒を夢見る
龍騰万万年 龍騰(のぼ)って 萬萬年あれ
作者:段 楽三(「漢俳詩人」誌主宰、中国漢俳学会常務理事)
新春歳又遷 春新たに 歳又た遷(うつ)る
四海翻騰巻巨瀾 四海 翻騰(ほんとう)して巨瀾(おおなみ)巻く
駕龍寰宇旋 龍に駕(の)って 寰宇(かんう)を旋(めぐ)る
作者:劉 徳有(中国文化部元副部長・中国漢俳学会会長)
飛龍破九天 飛龍 九天を破り (九天:天の高い所)
翱翔甲辰彩雲間 甲辰(きのえたつ)の彩雲の間を翱翔(こうしょう)して
送雪助豊年 雪を送り豊年を助ける
作者:王 衆一(中国外文局アジア太平洋中心「人民中国」誌編集長、中日関係史学会副会長)
平心静気好 平心静気 好し
龍吟虎嘯自清高 龍吟虎嘯 自ずと清高たり
煩悩更煩悩 煩悩更に煩悩なり
作者:王建樹(中国漢俳学会理事)
佳年逢辰龍 佳年 辰龍に逢い
九州万里絳気生 九州万里 絳気(こうき)生(う)み
快意逐春風 快意 春風を逐(お)う
作者:董 振華(中国漢俳学会副秘書長、「聊楽句会」代表)
共築中国夢 共に築く中国夢
華夏児女建新功 華夏の児女 新しく功を建(あ)げ
健歩奔大同 歩を健やかに大同へ奔る
作者:黄明燦(中国漢俳学会理事、「漢俳詩人」副主宰)
九州日摇光 九洲 日 光を揺らす
四海龍腾送安康 四海 龍 腾(のぼ)って安康を送り
国運万年長 国運 万年長し
作者:鄒彬(俳人、漢俳詩人)
2025年は漢俳が誕生して45周年の記念すべき節目の年となる。これを機に、今後の漢俳の益々の発展と両国民が俳句と漢俳(かんぱい)の交流を通して、真の「乾杯」(かんぱい)ができるよう願ってやまない。
参考文献
『日本俳句史』(鄭明欽)、『日中文化交流』創立六十周年記念特集(日本中国文化交流協会)、『漢俳詩刊』(段楽三編集)、『人民中国』(二〇二二年二月号「俳句・漢俳座談会」・劉徳有・王衆一・王小燕・斉鵬)、《光明日報》の「光明網」(二〇二一年十月二十七日十六版)等。