高岡 修(たかおか・おさむ)第71回現代俳句協会賞受賞

高岡 修(たかおか・おさむ)

高岡 修(たかおか・おさむ)詩人、俳人。
・昭和23年(1948年)9月17日、愛媛県宇和島市生まれ(67歳)。
・昭和37年(1962年)鹿児島市に移住。十代の頃から詩・俳句・小説を書き始める。
・昭和43年(1968年)現代俳句誌「形象」に参加、最年少同人となる。前原東作、岩尾美義に師事。
・昭和45年(1970年)国立鹿児島高専電気工学科中退。
・平成 2年(1990年)第18回南日本文学賞受賞。(詩集)
・平成 3年(1991年)「形象」復刊と同時に編集長となる。
・平成 6年(1994年)前原東作死去により、「形象」主幹となる。
・平成13年(2001年)第27回南日本出版文化賞受賞。
・平成17年(2005年)第46回土井晩翠賞受賞。(詩集)
・平成19年(2007年)第27回現代俳句評論賞受賞。
・著書に句集『水の蝶』など6冊。詩集『水の木』『高岡修全詩集』など17冊。
・文庫に思潮社版現代詩文庫『高岡修詩集』・ふらんす堂版現代俳句文庫『高岡修句集』。
・現在、現代俳句協会理事・鹿児島県現代俳句協会会長・鹿児島県詩人協会会長・日本現代詩人会会員・日本詩人クラブ会員・日本文藝家協会会員・俳誌「形象」主幹・詩誌「歴程」同人。
 
 
 
高岡修句集 『水の蝶』 自選五十句抄
 
郷愁へ大きく曲がる春の川
女体なら海市のひとつとして抱く
月光の立棺として摩天楼
父はまだ昨日の空を鋤きやまぬ
蝶わたりゆきあおあおと野を孵す
春愁とたわむれている指も水
かたつむり虚無に半身いれている
虹の腑の闇を見ている鳥一羽
殺意なら森商店の裏にある
方舟に乗りはぐれては狩る螢
アンモナイト死は円心にしてけぶる
溺れたる空眼にとどめタチアオイ
空蟬が想像している百の雷
空蟬の背にも銀河の流れこむ
質量を少し離れて秋の蝶
澄みゆくは哀しからずや秋の水
捨てるべき背中と思う芒原
天地(あめつち)を宥(ゆる)さず廻る独楽ひとつ
死するまで谺を使う冬木立
天心の乱心見たる凧(いかのぼり) 
飾るならカフカの闇へ黄水仙
夢みざる眼なら抉る雪の果て
寝返ればシーツに絡む冬銀河
美しき溺死もあらむ水中花
蚊帳を出て世界の果てへ出てしまう
肉のかげ恋うかに揺れる蛇の衣
次の世も系譜はひとつ蛇の衣
蔦のからむ夕空も切り花鋏
虹の屍(し)は石棺に容れ横たえる
月光のサランラップでつつむ森
草ひばり天上に響(な)る施錠音
踏切りを渡れるは地震/春の死者
溺死せざるものにはあらず陽炎も
死者のあうら白き炎として並ぶ
春雷と家霊をいれて棺一基
その樹液熱きか内部被曝の木
海の底を歩いては咲く夕ざくら
失踪もまたみずみずし雪解音
海底のピアノ連弾して果てる
鳥雲を出て鳥にある死のほてり
紙風船打ち天上の渚恋う
おぼろ夜も水の鎖につながれて
死者の胸の春愁を翔つ水の蝶
被曝せる木が朝焼けで洗う髪
筆立てに一絶壁を挿して秋
本の背に山霧流し読みふける
月光が編みゆく檻にみな睡り
麦の秋かく眩(まば)ゆきか転生は
墜落の高さを飛翔と呼べり鷹
沖に湧く手毬唄なら毬をつく