好井由江(よしい・よしえ)

・昭和11年栃木県鹿沼市生まれ。
・平成5年、小宅容義に師事し、「玄火」(嶋野國夫主宰)入会。
・平成9年、「玄火」新人賞・同人。
・平成9年、現代俳句協会入会。
・平成10年、同人誌「雷魚」入会。
・平成14年、「玄火」退会。
・著書に、句集『両手』、『青丹』。
・現在、「雷魚」同人。

 
第8回現代俳句協会年度作品賞受賞作品
「紙風船」  好井由江 
 
  払う手にこつんと固き冬の蝿
  雪が降る保護色という豹の前
  梟や文字消えかかる火伏護符
  雪月夜雪吊りたるむこと少し
  美しき距離老人と白鳥と
  飴玉やふと空っ風途絶えたる
  結氷のなかの賽銭銀貨かな
  擦れあう芦もつれあう芦枯れるる中
  枯れ芦に等しき高さ出水跡
  鯉の色あつめて水の凍りけり
  庭石のどれもひとつ癖冬日向
  形代になんにょのかたちなかりけり
  まっさきに日の当る木や二月来る
  ぶらんこを押すたび何か言うており
  紙風船つくたび音のいびつかな
  縞馬の縞うららかにもつれいる
  風の来て水盛りあがる代田かな
  いっぱいの霧を負いたる毛虫かな
  裸婦像にうろこ薄るるうろこ雲
  ずぶ濡れの鼠と出合う地蔵盆
  積み足してケルンさびしきかたちかな
  灰色の象とカンナをまのあたり
  鳥引くや郵便局の忘れ傘
  朝風呂が沸いて憲法記念の日
  河骨にすき間だらけの通り雨
  捩り花まっすぐに芯通りけり
  白鷺がふわりと代田持ち上げる
  遠雷やモナリザは目を開けしまま
  うとましきうから卯の花腐しかな
  あめんぼの脚ことごとく日が暮れる
 
 
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は受賞時点のものです。