第1回ポリネシア俳句大会受賞作品鑑賞②
👤マブソン青眼

マルキーズ諸島に住んでいた頃の筆者と愛馬「パエパエ君」

Danse le cheval,
Au rythme du toere
Sur le sable noir

Sandra Forlini, Nuku Hiva, Iles Marquises, Polynésie française

トエレ*のリズム
馬は黒砂で
踊り出す

フランス領ポリネシア・マルキーズ諸島・ヌクヒバ島 サンドラ・フォルリニ作
(マブソン青眼訳)
※トエレ:筒型の木造太鼓。クック諸島が発祥と言われているが、太古からポリネシアの村で祖霊を呼び起こすために使われてきた。

前回取り上げた句と同じく、第1回ポリネシア俳句大会の最優秀賞作品だが、今度はポリネシア諸語の部門ではなく、フランス語部門の俳句(Haïku)である。
いわば、マルキーズ語を母語とする作者が、フランス語(=植民地としてこの諸島を統治してきた国の言葉)で作ったものである。
つまり、この句は一種のクレオール文学としての俳句になっているともいえよう。
私自身もフランス人として1年間マルキーズ諸島に住んで痛感したことがある。
マルキーズ諸島はそもそもポリネシア文化の原郷(歴史的な発祥地)なのに、タヒチ島(政府所在地である自称「本島」)の人々から見て、「野蛮な僻地」としばしば差別されてきた。
それは、タヒチに住むフランス系の人々からというより、同じポリネシア系のタヒチ人から見下されてきたという暗い歴史があり、ある意味で「フランスとタヒチによる二重の差別」を受けてきたのだ。
この作品は、フランス語で書かれたにも関わらず、マルキーズ諸島ならではのアニミズム、そして場合によってトーテミズムも滲んでいると感じる。

マルキーズ諸島の人々は太古から、野原を彷徨える野生馬を捕まえては、生活を支える主な交通手段として、そして日常に欠かせない相棒として親しんできた。
そんな繊細な感情をもった動物が、祖霊を呼び起こすための太鼓(トエレ)を耳にして、突如ビーチの黒砂を踏み始め、踊り出したという句意。
馬が先祖の霊に乗っ取られたかのように。
火山島の黒砂、黒馬、その黒目に宿る祖霊、そして生者の太鼓のすべてが、一つのトーテムポールのように屹立する。
マルキーズ文化(Fenua Enata文化)のすべてを象徴するもの、それを“体系化”するトーテムのような一句である。

前回でも、いわゆる「オントロジー俳句論」について少し言及した。
現代人類学によると、人類には「アニミズム」「トーテミズム」「アナロジズム」「ナチュラリズム」という4つの世界観(オントロジー)しか存在しないという説がある(フィリップ・デスコーラなどの研究を参照)。
私は、その「オントロジー論」が俳句にも当てはまると度々書いてきたが、掲出句は正に「アニミズム俳句」と「トーテミズム俳句」の中間的特徴が認められるのではないかと思う。
デスコーラ曰く「人間の共同体が長らく同じ土地に定住すると、アニミズムがトーテミズムに変わることが多い」。
それならこの句はやはり、マルキーズ諸島の森羅万象が生んだアニミズムから、誇りとしてのFenua Enata文化のトーテミズムへと体系化されていく結晶、「クレオールの島唄」のようなHaïkuになっているのではないか。