三都物語|25年ぶりの海外旅行
👤木下小町

昨年末から年明けにかけて、マルタ―リスボン―バルセロナを回った。
娘がマルタに留学していたため、様子を見がてらの冒険の旅となった。
夢のような時間だったが、帰国後は日々に忙殺され、すっかり色褪せてしまった。
今回、M氏からこのようなご縁をいただいたので、思い返してみようと思う。

マルタ編|リサーチ不足から始まる旅

地中海の中心、イタリア・シチリア島の南に位置するマルタ共和国は、マルタ島、ゴゾ島、コミノ島の3島からなる美しい島国だ。
太陽が降り注ぐこの島は、リゾート地の印象が強いがなかなか奥深い。
そこには、7000年にも及ぶ重層的な歴史が息づいている。

マルタの歴史は、エジプトのピラミッドよりもさらに1000年以上前、紀元前3600年頃に遡る。
マルタ到着日に軽い気持ちで寄ってみた「ハイポジューム(地下神殿)」は1902年に宅地開発で偶然発見された地下3層にわたる複雑な迷宮だ。
7000体もの遺骨が眠るこの聖域は、当初は一般公開されていた。
しかし、苔やカビなどの劣化が激しくなったことから、現在は1日70名に入場制限されている。
実は予約していなかったため(リサーチ不足①)、翌日早朝から首都ヴァレッタまで出向いて予約を取り、ようやく観ることができた。

その帰り道で偶然入ったのが「聖ヨハネ大聖堂」だ。
外観の簡素さからは想像もつかないほど豪華絢爛なバロックの装飾が、天井から床のモザイク画に至るまで、埋め尽くす。
聖ヨハネ騎士団(マルタ騎士団)の栄華が極まった黄金の世界。
聖堂の両脇には、フランス、スペイン、イタリアなど、騎士団を構成していた“八つの言語(ランゲ)”ごとの礼拝堂が続いている。
フランスの華やかさ、スペインの重厚さ、イタリアのバロックの輝き…一つの聖堂の中に、ヨーロッパの美意識が競い合っているかのように。

この一角に、カラヴァッジョの『聖ヨハネの斬首』を観ることができる。
ローマで殺人を犯し逃亡の末にマルタへ辿り着いた彼は、騎士団への入団と引き換えにこの祭壇画を描き上げた。
画面右下、滴る血溜まりの中に彼が唯一署名を残した大作は、マルタ騎士団のナイトの称号を与えられるほどの評価だった。
結局はその栄誉が原因となり、騎士団の幹部と争い、投獄、脱獄してシチリアに渡るのだが、その後まもなく、非業の最期を迎えるのだった…

冬銀河逃げ切れるのかカラヴァッジョ
             木下小町

ゴゾ島にも足を伸ばしてみた。
神殿繋がりで、世界最古と言われる巨石神殿「ジュガンティーヤ」に向かったのだが、クリスマス休暇(リサーチ不足②)。
落胆していると、どこからか、オカルトチックな鐘の音が聞こえてくるではないか。
これは現実か?それとも…と歩いて行った先には「シャーラ教区教会」。
クリスマスだからか、延々と鐘の音が鳴り響く。
よく見ると人力で鐘を鳴らしている。

淡路島の半分ほどの面積のマルタには、石灰岩で作られた美しく荘厳な聖堂や教会が、至る所に点在している。
その数は360を超えると言われる。
それは、地中海の中心にあるがゆえ、海賊やオスマン帝国の軍勢、ナポレオン軍など、多くの戦いを経てきた人々の拠り所であり、心の要塞なのかもしれない。

鐘楼の鐘高らかに去年今年
             木下小町

木下小町(きのしたこまち)
北海道札幌市在住
「ペガサス」同人 
日本酒と旅と人が好き