
第43回兜太現代俳句新人賞 佳作
後藤麻衣子
へその緒
クーラーはもう切る雨音と眠る
胎の子とそれぞれの水泳ぎつつ
操演の小指で秋を待つしぐさ
長崎忌子らの寝相にある寝息
どちらかといえば無口な墓参り
焼きそばの列に食い込む踊の輪
バンジージャンプあれは背高泡立草
月の座にサインのためのペンを買う
休前日みたいな月曜日の良夜
星とんでやっぱ立ち漕ぎにしようよ
書いてみてなんか違う字豊の秋
オリーブは実る古巣に顔を出す
他所の子に言うおかえりや雪迎
どんぐりをひろった場所にもどす子ら
七五三五才の臍は逞しく
口笛の転調勤労感謝の日
竹馬の男子昼休みを並ぶ
電気消そっか柚子風呂光るかも
数え日やほとんどみんな降りる駅
北風のよく見えている広場かな
去年今年さておめでとうさて寝よう
甥っ子の急な敬語のお年玉
決めたてのあだ名呼び合う新年会
歯磨きにある音階や冬銀河
職員室は暖房とコーヒーの匂い
搬入日いい深葱を切っている
@の前の旧姓春隣
起きぬけに言うおめでとう雪解光
バルーンリリースこちらは土に還ります
卒業式だし明日はもう手をつながない
和布噛む音は海辺の空の味
窓みんな等しく南向いて春
月並みな春一番を教え合う
灰皿に集うジェスチャー木の芽晴
春眠や雪の名前の戦闘機
富裕層みたいなほっぺ菜種梅雨
昨日よりかっこいい枝や遠足
風船みるみるみるみる泣きやむ子
あたらしい家族と事足りる花時
尾をつけるための型紙みどりの日
窓際へ金魚仮設の営業所
暑いので青えんぴつでいいですか
どこからか埃を連れて守宮来る
ほうたる消えてまだ胎内だったか
「使いやすいトマト」と売られてるトマト
キャンプ更けメイクを剥がすように拭く
指先がたぶんドラマー夏期講習
親切なひとの方言清水汲む
幽霊きょうはマッチ箱にいます
文通に入れるキャラメル夏の果
◆受賞のことば
私にとって連作を編むうれしさは、新しい星座を見つけて名前をつけるような心地にあります。
ことさら明るく見える星を起点にして描く絵を決めたら、それを完成させるために必要な小さな星を探していく作業。
たとえばオリオン座なら、三つ星になる句を据えるところからはじまり、どの星にどう繋げればあの狩人の姿になるのかを考えながら、誰も気づかなかい小さな星を見つけていきます。
最初に設計図のような絵があるわけでもなければ、見えている星を適当に線で繋ぐだけでもない。
新しい星を生み出すのではなく、目を凝らして小さな星に気づいて繋げる、そんな感じです。
一句一句を点と点で繋ぎ、私にしか見えていないかもしれない何かを世界に浮き上がらせ、その星座に新しい名前をつける権利を得る、そんな、たまらないうれしさがあります。
今回は公開選考会という貴重な機会に恵まれ、たくさんの先生方に読みほどいていただく現場に同席することが叶いました。
明るいと思って真ん中に据えた星がさらに明るく輝きはじめたり、必要のない星に気づかせていただいたり。
いつも、何度も見たはずの空なのに、どこか知らない村の山頂から眺めているような心地で、ほんとうに人生のご褒美のような時間でした。
作品を丁寧に評してくださいました選考委員の先生方、選考に関わってくださった協会の皆様、ありがとうございました。
最後になりましたが、日頃より私を導いてくださる先生、そして共に切磋琢磨し合える句友のみんなに、心からの感謝を伝えたいです。
俳句を書くこと、高めあうことを一緒に面白がってくれる仲間がいてこそ、私は書き続けていけるのだと思います。