ポノポノ奮闘記Vol.6
――流れていく――
👤ナカムラ薫

島が沈むのではないかと思った。
20年ぶりの大低気圧が居座り、豪雨と強風が二週間ほど続いた。

切り立った岩山のあいだから轟音とともに幾筋もの水が落ちる。
鉄砲水というより、これはもう滝である。

丘の上の我が家の窓は風にたわみ、やがて電気が落ち、インターネットも途絶えた。
日常は、あっけなく消える。

夜、わずかに窓を開ける。
ガタのきていた網戸はとうに吹き飛ばされ、虫がなだれ込んできた。
あれほど新調しようと言ったのに……と、家人を少し睨む。

風呂場には蛙が一匹、避難している。
「しばらくどうぞ」
こちらこそ、あなたたちの山に住まわせてもらっているのだから。

やっと空がゆるみ、明るくなった昼過ぎ、食料を買いに出る。

ビーチパークはがらんとしていて、野生の鶏が高い幹で何かを見張りながら風に吹かれている。
いつからこんなに高いところまで飛べるようになったのだろう。

渡りをやめたモナーク蝶は、さっそくブーゲンビリアの蜜を吸っている。
あの嵐を、どこでやり過ごしたのだろう。

駐車場には、妙にイカした犬がいた。
ちょいと私を一瞥し「すべて承知」という顔をする。

そうだ、今夜は家人の好きなラーメンをこしらえよう。


さて、第19回JAL世界こどもハイクコンテストの審査が始まった。

俳句と俳画の作品
15歳以下
母国語で詠むこと
テーマは「音」

応募数は回を重ねるごとに増え、第18回は126、そして今回は254。
各校の先生がたの尽力に、ただ感謝するばかりである。

審査は、Niu Valley中学校にて。
ハワイ大学のミキ先生、Andrea先生、Niu Valley中学校のLynn先生、そして私。

優秀賞3作(金・銀・銅)は、いずれも満場一致だった。
金賞の一句は、とにかく強かった。
そういえばレクチャーのとき、「こころはおとがします」とつぶやいた生徒の句である。

全作品を見直し、入賞10作品を選ぶ。
唯一無二の発想を掬い上げることに心を尽くす。

5歳の子の、花の命をまっすぐに詠んだ一句を掬う。
文字の形やスペルの違いさえ、愛おしく美しい。


帰宅し、英語俳句レクチャーのスライドを仕上げる。
来週は、カポレイの私立校Island Pacific Academyで授業だ。

かつてパイナップルと砂糖キビの畑だった土地。
いまは島第二の都市へと変わりつつある。

近くには、ホノウリウリ強制収容所跡。
このエリアに近づくと車のGPSは突然消える。
第二次世界大戦中、日系人をはじめ、ドイツ系、イタリア系住民、さらに戦争捕虜などが収容された場所である。

乾いた赤土の谷に、鉄条網と監視塔。
収容者は劣悪な環境のなかで生活を強いられた。

2015年2月24日、バラク・オバマ大統領によりアメリカの国定史跡に指定された。
それまでは、“モンサント”社が、この広大な土地を所有していた。
ベトナム戦争で撒布された枯葉剤の製造に関わった企業である。

強制収容所発掘に関わったおり、写真撮影は禁止され、常に監視がついた。

──閑話休題。

英語俳句を作り日本語に訳す。
担任教師からのリクエストである。
子どもの思いに寄り添う訳にしたい。
時間はかかる。
けれど、それでいい。

作品を、どう残すか。
色紙ではつまらない。
机の隅で埃をかぶる未来が見えてしまう。

ならば──使うものにしよう。
片面に英語俳句、もう片面に日本俳句。
好きなスティカーを貼って、カラフルなデコうちわにする。
盆踊りにも、BBQの火起こしにも使えるな。

ひとしきり楽しく考えていたら、ふと椰子の梢のさえずりに誘われた。
ラナイに出て深く息を吸う。
縮みかけていた手と足を空へ海へ思いきり広げると、アロハの香りがゆっくり満ちてくる。
しばらく伸びやかなメロディを私の隅々に奏でると、小鳥たちは涼しく光る黄色い羽だけを置いてどこかへ去っていった。

Ua Mau ke Ea o ka Aina i ka Pono
──大地の生命は、正義のもとに在り続ける。
ハワイ州のモットーである。

この島に息づく、Ho’ oponopono ホオポノポノ。
人を本来の状態へと整える、和解と赦しの知恵。
鳥に導かれ、ポノポノに手を引かれ、未熟な旅は、まだ続く。

忘れないようにしよう。
世界は開かれていて、海のように親しく豊かに流れていることを。