虹の下で
👤木村聡雄

虹の彼方―
鉄条網があるとは
誰が想像しただろう
          パトリシア J. マクミラー

beyond the rainbow—
who’d thought there’d be
barbed wire
          Patricia J. Mcmiller

一行目から読者の頭には、「虹の彼方に」という美しい曲が響き渡るだろう。
ミュージカル映画『オズの魔法使い』(1939)の劇中歌である、当時まだ子役だったジュディ・ガーランドの歌う歌詞の内容は、虹の彼方へ行けば夢がかなうというものである。

虹の向こう側へはどうやって辿りつけるだろうか。
この曲の歌詞によれば、青い鳥が虹の上を越えて飛んで行くのということで、これがほとんどの人にとって真っ先に浮かぶイメージだろう。
とはいえ、鳥あるいは飛行機なら大空を飛翔できるだろうが、もしわれわれ自身が虹を目指すとしたら、虹が消える前にヘリやセスナをチャーターするのは難しいので、歩いて(あるいは車・列車などで)行くのが実際のところだろう。
いずれにしても、どうやら空中ではなく、地上を進んでゆくことになりそうだ。

こうして虹を超える手段の話をしているわけは、ミュージカル曲の題名とこの句の始まりでは表現が少し違っていて、それがこの作品後半を示唆しているからである。
名曲のほうは “Over the Rainbow” である。“Over…” という表現は、日本語の「オーバー」という表現にあるように、虹の「上のほう」とか、虹を「こえて」ということで、鳥たちの話である。
一方、この引用句では、よく見ると “beyond the rainbow” と書かれているので、「向こう側」へ行くなら虹の上でも下でもいい。
句の後半を読み進めると、ここでは上述のように、虹の下の地上を行くイメージであることがわかる。

そして最終行では、虹の向こうまで進むとそこにはなんと鉄条網が立ちはだかっていたというのである。
この句においては有刺鉄線に阻まれて理想郷にたどり着くことは決してない。
イメージは戦場にも結びつくので、おそらくは戦地で地面にへばりついて、匍匐前進で虹の向こう側を目指そうとしていたとも読めるのである。

前に広島/長崎についての海外俳句(2026年8月号)を取り上げたが、この句の作者もまた世界で今も続く戦争に心を痛めているに違いないのだろう。

(俳句和訳:木村聡雄 ed. Lee Gurga & Scott Metz, Haiku 21.2, Modern Haiku Press, 2025)

[Under the Rainbow Toshio Kimura]