あの日の星空
👤庄子紅子

9月は一年の内で最も過ごしやすい月ではないだろうか。
空気が澄んで空も山も気持ちがいい。
夜空にはギリシャ神話に出て来る星座が輝きを増して見える。
そんな美しい夜空を眺めていると、どうしても思い出してしまうもうひとつの夜空がある。

2011年3月11日の東日本大震災の日の夜空である。

地震発生の時刻の午後2時46分、私は職場の事務室のパソコンに向かっていた。
揺れが起こり、皆、顔を上げて辺りの様子を伺っていたが、ここ数日地震が頻繁に起きていたので、また来たか、くらいに軽く思い、又、パソコンに向かった。
が、揺れは収まるどころかどんどん激しさを増していった。
私達も危険を感じ始め、建物の外へ出た。
2階にいた人達も駆け下りて来た。
隣の建物にいた人達も声を掛け合いながら外に出てきて、身を寄せるように近くに集まった。

揺れは激しくなる一方で、もう立っていることが出来なくなった。
皆、四つん這いになり、揺れが来ると大声で叫びながら顔を伏せ、揺れが収まると顔を上げるということを何度も繰り返していた。

このままいけば地面が割れ、地の底に皆落ちてゆくのではないか、という恐怖に襲われた。
死ぬかもしれない、と初めて思った。

何時間経ったのだろう。
私達は何時間四つん這いになって恐怖に押しつぶされていたのだろう。

いつの間にか夜になっていた。
灯などどこにもなかった。

揺れがやっと収まり、皆、思い思いに立ち上ったが、どこにも行ける状況ではなかった。
じっと立っていると寒さも増して来る。
3月とはいえ、東北の夜はまだ寒いのだ。

突然、雪が降ってきた。
牡丹雪だった。
皆、無言のまま夜空を見上げていた。
と、突然雪が止んだかと思うと、夜空一面に星が煌めき始めた。
今まで見たこともないような美しい星空だった。
映画を観ているような錯覚に囚われた。
あちこちから溜息のようなざわめきが起こった。
私は美しすぎるこの星空がなぜか不安でしょうがなかった。

今、何処で何が起きているのか、全くわからない状況にいた。
車で15分も行けば着く町が津波に流され、街ひとつ消えてしまっていたことなど知る由もなかった。

夜も更けて来た。
市外に住んでいる人達は事務所の床に段ボールを敷いて一晩を過ごす事になった。
私は両親が心配だったので車で帰ることにした。
信号も止まり、交通量の多いバイパスを横断して帰らなくてはならなかった。
遠い遠い家路だった。

ささやきの聞こえてきたり星月夜
             庄子紅子

庄子紅子(しょうじこうこ)
岩手県花巻市生まれ 宮城県名取市在住
「牧」会員 現代俳句協会会員 宮城県俳句協会会員
句集「静電気」