杭を打つ裸ぎらりと裏返し 北 光星 評者: 前田 弘

杭を打つ裸ぎらりと裏返し北 光星

 護岸工事かなにかの作業現場、日に焼けた背中をぎらりと裏返して杭を打つ。屈強な肉体労働者の姿か鮮やかに見えてくる。
 作者は大正12年、北海道生まれ。俳句を竹田凍光、細谷源二等に学び、昭和31年「礫」を創刊、若くして大工俳人と注目を浴びている。
 掲句、昭和23年、作者25歳の頃の作である。ぎらりと裏返す裸に青春の自負と誇りが揺曳する。「北海道の真夏日は十指で足る日数。上半身を裸で働くのは生命の躍動だ。建築の一歩は杭打ちで、まっすぐ打つのに体の場をぐるぐる変えて打つ」(『自註現代俳句シリーズ・北光星集』)という、自註がある。たった十日しかない北海道の真夏日、裸の背中に太陽の恩寵をたっぷり感じ取っているのだ。
  杭打ちて杭として彳つ秋の暮      北 光星
  枯るるなか杭打ち込んで野を緊める
  大年の杭を打つ頬まつかにし
 大工道具ならぬ杭を素材とする、大地と一体化した肉体感が読者の心を捉える。
 「礫」は昭和41年、「扉」と改称し「俳句は有季定型を基調とし、伝統形式を大切に、現代の生活意識を内にこめた日本の詩ごえである」を旗印に、同人誌としてスタート、更に47年「道」と改称、光星の主宰誌となり、氏の逝去後源鬼彦氏に引き継がれ北の俳誌として光彩を放っている。
 そういえば、光星氏は師の源二から師の代表句が「地の涯に倖せありと来しが雪」と聞かされ、袂を分かったと語っていた。土着の光星にとって、師の句のよそ者意識が耐えられなかったのかもしれない。確かに、源二の句は捨ててきた故郷への未練でしかない。

出典:『自註現代俳句シリーズ・北光星集』

評者: 前田 弘
平成21年12月1日