車組むや一滴の油地にひらく 長谷部虎杖子 評者: 十河宣洋

 北海道の雪解けの頃のあちこちで見られた風景。雪解けを待ちながら、納屋の前で土の匂いを嗅ぎながら、馬車やリヤカーなどの整備をする。整備というより納屋に仕舞ってあった馬車などを組み立てながら、錆を落としたりしながら油を差す。馬車などは何人かの男が声を掛けながらの作業である。グリスなどが雪が解けたばかりの水溜りに落ちて、ぱあと油膜が水に広がり日ににじむ。雪解けの道路はあちこちにこの油膜が日を弾いているのを見かける。
 私の父は自転車を頼まれて組み立てることが多かった。中学生などがその近くで父の手元を見ながら工具をいじっていたりしていた。こうして工具などの使い方を知らず知らず覚えていったのだと思う。自転車といっても一家に一台もなかった時代である。
 春を待つ北国の土の匂いのする句である。
 長谷部虎杖子は明治20年10月18日宮崎県生まれ。本名栄二郎。大正10年牛島滕六が「時雨」を創刊すると参画し、昭和12年の廃刊まで「時雨」の発行編集を担当。12年6月誌名を「葦牙」と改め滕六の主張を継承し発行する。虎杖子は昭和47年に没したが、「葦牙」は平成27年9月号で1015号に達している。

出典 小樽市銭函御膳水句碑(昭和26年5月27日建立)

評者: 十河宣洋
平成27年11月11日