地の涯か秋潮聴くにみな口あけ 古田冬草 評者: 十河宣洋

 地の涯は、細谷源二の句が有名であるが、この句には捨てがたい風土を感じる。日本海の重い海の色と冬を迎える準備に追われる人々の生活が見えてくる。
 地の涯かといったん切って、自問する作者の心とふっと手を休めて聴く潮鳴り。周りで動いている人の呼吸が聞こえてくる。ああ冬が来るなあという思いはそこで仕事をしている人の心にあるが、誰も何も言わない。いまさら声に出すこともない自明の時間が来るのである。みな口をあけに有島武郎の小説「生まれ出る悩み」のモデルの画家「木田金次郎」の絵の風景を思う。
 古田冬草は明治32年2月2日北海道栗山生れ。青木郭公に師事し、俳誌「曉雲」の編集を担当。昭和20年新田汀花を擁して「緋衣」を余市から創刊、後冬草が主幹。「緋衣」は昭和35年終刊し、多くの会員は「葦牙」など道内誌に寄った。
 昭和30年代に投句のほとんどが現代かな遣いであることに論及し、やがてはほとんどの俳句は現代かな遣いになると感想を述べている。
 昭和58年9月30日歿。85歳。
 句集『冬霧』 遺句集『緋衣とともに』

出典句集:『冬霧』

評者: 十河宣洋
平成27年11月21日