コンチクシヤウ俺ハナニモノ花ノ闇 佐藤鬼房 評者: 安西 篤

 平成6年の作。晩年、癌を患い、入退院を繰り返していた頃の心意が露わである。人は、人生で三度「自分は何者」と問いかけるという。青春期、人生の折り返し期、そして晩年。ことに晩年の問いかけは、生死の境にあるだけに痛切なものになる。
 この句のカタカナ表記には、作者の絶叫が込められている。「花の闇」の奥には、死神の姿がみえていたのだろう。「鉛筆を握りて蝶の夢を見る」と、最後まで妄執のように俳句を作りつづけた鬼房には、こんな中途半端な状態で自分を区切られるわけにはゆかぬという思いがあったに違いない。表現者の執念の句というべきか。
 
評者: 安西 篤
平成19年4月19日